やつ)” の例文
そいつが揃って酔っぱらって、大道で光るやつを抜いたりするから、陽が落ちて暗くなると、鶴岡の前はバッタリ人通りがとだえる。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
露助の兵隊なんか大きなやつを振り廻してやたらに、ヤポウネツ・ヤポンツァ! って呶鳴どなる——。
踊る地平線:01 踊る地平線 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
ヘエ、しかし、ひとつは、無銘の長いやつ、ひとつは新藤五という小脇差で、すばらしい名作、のみ手斧ちょうななら知らないこと、船大工風情の手にある代物しろものでないことは分っています。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
昔はお武家が大小をしてお歩きなすったものですが、廃刀以来幾星霜を経たる今日に至って、お虫干の時か何かに、刀箪笥から長いやつ取出とりいだして、これを兵児帯へこおびへ帯して見るが
「さあ、お浪人、相手が変ったぜ。弁天さまのような女形おやまのかわりに我武者がむしゃらな、三下じゃあ、変りばえがしねえだろうが、たのむぜ。その斬れ味のよさそうなやつの、始末を早くつけたらどうだ?」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
赤くなった黒木綿の紋付にがんどう頭巾、お約束の浪人姿が、どきどきするような長いやつを引っこ抜いて立っている。女はにっとして戸をしめると
一昨日おとといの晩、てめえが大黒宗理の所から持って帰った刀、一本は無銘の長いやつ、一本は新藤しんとう国光くにみつだ。宗理の店の研物とぎもの台帳から、ちゃんと洗いあげてあるンだから、いいのがれはかなわねえ。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
長いやつを一本ぶっ込んだまま、玄蕃を見上げて、相変らず美しい顔を笑わせている。ほとんど無心に見えるのだ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
しかも、喬之助や右近と同じ装束で、長いやつまでひねくり廻しているんだから、ちょっと見ると喬之助が三人いる訳で、実にどうもまぎらわしいことおびただしい。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
服装なりだって見上げたもので、まだ薄ら寒いこの春宵しゅんしょうに、よごれ切った藍微塵あいみじん浴衣ゆかた一まい、長いやつを一本ブッこんで、髪なんかでたらめだ。クシャクシャにつかげている。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
即妙そくみょうの刀架け……それに、赤鞘の割れたところへ真田紐さなだひもをギリギリ千段巻きにしたすごいやつが、かけてあるのだから、与吉も、よっぽど気をつけて口をきかなければならない。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ぞろりとした着流しに長いやつをりゃんときめて、所在なげに両手を帯前へ突っこんでいるのだが、それが、早い話が若様御成人といった形で、このところすくなからずあっけない感じだ。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)