冥想めいそう)” の例文
それを二、三の友達が誤解して、冥想めいそうふけってでもいるかのように、の友達に伝えました。私はこの誤解を解こうとはしませんでした。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何かしら魔法的な力によってどうしても冥想めいそうに沈まなければならないような驚くべき心理状態に襲われてしまうあの空々漠々たる時間のあいだ
勉強記 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
と署長は、周到に手帖を畳んで冥想めいそうしていると、そこへ庄内村の巡査が入って来て彼の机の前で挙手の敬礼をした。
人間灰 (新字新仮名) / 海野十三(著)
孝行譚の方にはそのような夕方の冥想めいそうはないはずであるのに、かくまで芸術化しまた近代と調和して、しかも前生の因縁を語る点において、他の多くの鳥の話と
深い冥想めいそうの底から、安祥として、現世の色界しきかいに戻って来たという足なみでもなく、そうかといって、退屈しきって、所在なさに、四肢の置き場と、顔面筋肉とを
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
僕のいわゆる折々退け、折々冥想めいそうせよということは、単に不精ぶしょう寝転ねころんでおれ、不精にかまえろというのとは大いに違う。また折々という文字がばくとしたことである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
終日佛間ぶつまにいて、冥想めいそうふけるとか、看経かんきんするとか、何処かの貴い大徳だいとこを招いて佛法の講義を聴聞ちょうもんするとか、云うような日が多くなったので、乳人や女房たちは愁眉しゅうびを開いて
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
百合ゆりの花をもって礼拝し、はすの花をもって冥想めいそうに入り、ばらや菊花をつけ、戦列を作って突撃した。さらに花言葉で話そうとまで企てた。花なくてどうして生きて行かれよう。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
貫一は抑へて怪まざらんとば、理に於て怪まずしてあるべきを信ずるものから、又幻視せるが如きその大いなる影の冥想めいそうの間に纏綿てんめんして、あるひは理外に在る者有る無からんや
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
それを徒らな冥想めいそうにたよっている空論に過ぎないとまで非難したとも伝えられています。
メンデレーエフ (新字新仮名) / 石原純(著)
石川河のかわらに近く庵室あんしつをしつらえさせて、昔物語の姫君のように、下げ髪に几帳きちょうを立て、そこに冥想めいそうし、読書するという富家ふうかひとは、石の上露子とも石河の夕千鳥とも名乗って
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
彼自身にとって最も幸福な、数学ずくめの冥想めいそうの中へグングンと深入りして行った。
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
自分一人ではいたたまらずに誰にでももたれ掛りたいような気持でいたのに、今は静かな独自の冥想めいそうに無限の愛と哀愁と力とを覚えて、外界の酷薄な圧迫を細々ながらこの全身の支柱に堪えて行こう
鏡心灯語 抄 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
文麻呂は傍の木の切株に腰を下ろして、冥想めいそうふけり始める。………
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
丁度浮木うききが波にもてあそばれて漂い寄るように、あの男はいつかこの僻遠へきえんさかいに来て、漁師をしたか、農夫をしたか知らぬが、ある事に出会って、それから沈思する、冥想めいそうする、思想の上で何物をか求めて
冬の王 (新字新仮名) / ハンス・ランド(著)
ありがたい事に私の神経は静まっていた。この嘲弄の上に乗ってふわふわと高い冥想めいそうの領分にのぼって行くのが自分には大変な愉快になった。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
………なるほど蛍狩と云うものは、お花見のような絵画的なものではなくて、冥想めいそう的な、………とでも云ったらよいのであろうか。それでいてお伽噺とぎばなしの世界じみた、子供っぽいところもあるが。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
車が自分の前を通り過ぎる時間は何秒と云うわずかのあいだであるから、余が冥想めいそうの眼をふとあげて車の上を見た時は、乗っている客はすでに眼界から消えかかっていた。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
主人はうやうやしく八分体はっぷんたいの名筆を巻き納めて、これを机上に置いたまま懐手ふところでをして冥想めいそうに沈んでいる。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「コーラッ」としかりつける源さんの声が、じゃらん、じゃらんと共に余の冥想めいそうを破る。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一層をくだるごとに下界に近づくような心持ちがする。冥想めいそうの皮がげるごとく感ぜらるる。階段を降り切って最下の欄干にって通りをながめた時にはついに依然たる一個の俗人となりおわってしまった。
カーライル博物館 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私の冥想めいそうはいつまで坐っていても結晶しなかった。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
平岡はこう云って、しばらく冥想めいそうしていた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)