ちご)” の例文
旧字:
「にくげなるちごを、おのれが心地にかなしと思ふままに、うつくしみ遊ばし、これが声の真似にて、言ひけることなど語りたる」
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
ちごを静かに寝床にうつして、女子をなごはやをらたちあがりぬ。ざしさだまりて口元かたく結びたるまゝ、畳の破れに足も取られず、心ざすは何物ぞ。
軒もる月 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ちごを愛する人たちもこれをよく記憶していて、喜びにつけ悲しみにつけ、始終地蔵さんの前に来て、いろいろの願いごとをしては拝んでいた。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
愛執に依って蛇となったは、『沙石集』七に、ある人の娘鎌倉若宮僧坊のちごを恋い、死んで児を悩死せしめ、蛇となって児のしかばねまとうた譚あり。
行歩ぎやうぶかなへる者は、吉野十津川の方へ落ゆく。あゆみもえぬ老僧や、尋常なる修業者、ちごどもをんな童部わらんべは、大仏殿、山階やましな寺の内へ我先にとぞにげ行ける。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
「心ときめきするもの。——雀のこがひ。ちごあそばする所の前わたりたる。よき薫物たきものたきて一人したる。唐鏡からのかがみの少しくらき見いでたる。云々。」
めくら草紙 (新字新仮名) / 太宰治(著)
矢よりもはや漕寄こぎよせた、同じわらべを押して、より幼き他のちごと、親船に寝た以前さきの船頭、三体ともに船にり。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ちごたけというけわしい峯が御陵のうしろにそびえたち、千仞せんじんのふかい谷底からは雲霧がわきあがってくるので、眼前のものさえはっきりしない心地がされる。
仲国はむろん団十郎で、小督局こごうのつぼねが秀調、小女房冷泉れいぜいが新蔵、「高野物狂」では高師四郎たかしのしろうが団十郎、ちご龍若が女寅めとらであったが、取分けて仲国が優れてよかった。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
またたけのこの皮を男のおよびごとに入れてめかかうしてちごをおどせば顔赤めてゆゆしうおぢたるかた云々
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
ここまで話して、黒い外套の怪婦人は、呪の宝石を弔い顔にちごふちの荒波を見詰めました。
呪の金剛石 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
直ぐ向うのならびが岡の兼好けんこうが書いた遊びずきの法師達が、ちごを連れて落葉にうずめて置いた弁当を探して居やしないか、と見廻みまわしたが、人の影はなくて、唯小鳥のさえずる声ばかりした。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
音にきゝたるちごたけとは今白雲に蝕まれ居る峨〻がゞと聳えしあの峯ならめ、さては此あたりにこそ御墓みしるしはあるべけれと、ひそかに心を配る折しも、見る/\千仭せんじんの谷底より霧漠〻と湧き上り
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
先づ大網おほあみの湯をすぐれば、根本山ねもとやま魚止滝うおどめのたきちごふち左靱ひだりうつぼの険はりて、白雲洞はくうんどうほがらかに、布滝ぬのだきりゆうはな材木石ざいもくいし五色石ごしきせき船岩ふないわなんどと眺行ながめゆけば、鳥井戸とりいど前山まえやま翠衣みどりころもに染みて、福渡ふくわたの里にるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
春の雨高野の山におんちご得度とくどの日かや鐘おほく鳴る
舞姫 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
灌仏かんぶつや捨子則ち寺のちご 其角きかく
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
飾磨しかま郡増位山随願寺の会式えしきで僧俗集まり宴たけなわなる時、薬師寺のちご小弁は手振てぶりに、桜木の小猿という児は詩歌で座興を助けるうち争論起り小猿打たる
そばには可愛かあゆちご寐姿ねすがたみゆ。ひざの上には、「無情の君よ、我れを打捨て給ふか」と、殿の御声おこゑありあり聞えて、外面そともには良人をつともどらん、更けたる月に霜さむし。
軒もる月 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
うす紅梅の児水干ちごすいかんをきせて、漢竹の楊条ようじょうを腰にささせたらば、あわれ何若丸とか名乗る山門のちごとして悪僧ばらが渇仰随喜かつごうずいきまとにもなりそうな美しく勇ましい児ぶりであった。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
まつかしはは奥ふかくしげりあひて、二一青雲あをぐも軽靡たなびく日すら小雨こさめそぼふるがごとし。二二ちごだけといふけはしきみねうしろそばだちて、千じん谷底たにそこより雲霧くもきりおひのぼれば、咫尺まのあたりをも鬱俋おぼつかなきここちせらる。
道々西洋人と小児こどもの姿を見なかったかと聞き乍ら、金亀楼きんきろうの前からちごふちの方へ、行こうとして、フト見ると、私等の前へ、道の無い所を右へ切れて、黒貂外套が藪を分けて行くのです。
呪の金剛石 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
宇治は、嵯峨さがは。——いや、いや、南禅寺から将軍塚を山づたいに、ちごふちを抜けて、音羽山清水きよみずへ、お参りをしたばかりだ、というと、まるで、御詠歌はんどすな、ほ、ほ、ほ、と笑う。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
をさなきちごむかひ居て散りかかりたる花を拾ひとるかたある所をよめる
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「『あはれ、のこりすくなき世に、おひ出づべき人にこそ』とて、抱きとり給へば、いと心やすくうち笑みて、つぶつぶと肥えて白ううつくし。大将などのちごひ、ほのかに思し出づるには似給はず。」(「同」)
母が心の何方いづかたに走れりとも知らで、乳にきれば乳房に顔を寄せたるまゝ思ふ事なく寐入ねいりちごの、ほう薄絹うすぎぬべにさしたるやうにて、何事を語らんとや、折々をり/\ぐる口元の愛らしさ
軒もる月 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)