何方どっち)” の例文
「元来豪傑気取のところへ、勲章を貰ってから誇大妄想こだいもうそうが手伝っています。西郷どんとガラマサどんと何方どっちだろうなんて言いますよ」
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
最初果し合いに持出した徳利には、二本共南蛮物の毒薬を仕込み、大井久我之助は何方どっちを取っても、助からないように仕組んだのだ。
蛇行していれば、何方どっちから出て来て突当ろうとしても、何等自分の威厳を傷つけられた風に見せずに、身をかわして了えるからだっだ。
黒い地帯 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
舞台の芸に心を刻み、骨を砕き、ひたすら、一流を立て抜こうとする芸人と、押し借り強請ゆすりの悪浪人と、何方どっちが恥ずべき境涯なのだ——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
その頃はお政も左様さようさネと生返事、何方どっち附かずにあやなして月日を送る内、お勢のはなはだ文三に親しむを見てお政もついにその気になり
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
彼れが気がついた時には、何方どっちをどう歩いたのか、昆布岳の下を流れるシリベシ河の河岸の丸石に腰かけてぼんやり河面かわづらを眺めていた。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
けれども三千代と最後の会見を遂げた今更、父の意にかなう様な当座の孝行は代助には出来かねた。彼は元来が何方どっち付かずの男であった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
侍「まゝ黙ってお聞き、そう先走られると何方どっちが話すのだか分らん、山賊が団楽坐くるまざになっていたのではない、一軒の白屋くずやがあった」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
何分時間が早いので一応雷門かみなりもんの牛屋に上りまして鍋をつっ突き酒を加え乍ら、何方どっち方面の女にしようかと目論見を立てる事に致しました。
陳情書 (新字新仮名) / 西尾正(著)
「黙っといで。黙っといで」と泉太は父の言葉をさえぎるようにした。「節ちゃん、好いことがある。お巡査まわりさんと兵隊さんと何方どっちが強い?」
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
何方どっちが負けそうなとう事は双方の顔色かおいろを見てわかるから、勝つ方の手を誉めて負ける方を悪くさえ云えば間違いはない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
実を云うと、同じ救護船浦島丸の無電技師で川本順吉という友達と、何方どっちが先に流血船の真相探険をするか、もう五週間も前から賭けをしていた。
流血船西へ行く (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
妙なものでこう決定きまると、サアこれからは長谷川と高山の競争だ、お梅さんは何方どっちの物になるだろうと、大声で喋舌しゃべ馬面うまがおの若い連中も出て来た。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
支那の政府が変ったばかりでこれから何方どっちを向くかわからないことだし、直接商売に関係のあることですものねえ……。
女の一生 (新字新仮名) / 森本薫(著)
「ドニメ」と私はいかつい声で「少しお前に訊きたいものだ。今から丁度二十日程前だ、ボヘミアの奴等が来ただろう? 其奴そいつ何方どっちへ突っ走った?」
西班牙の恋 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
何方どっちかと云うと速口な、然し聞とり易い落付いたアルトの声で、全心を注ぎ、講義された俤が、今に髣髴としている。
弟子の心 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
太吉は、母に向って何方どっちの町へ行くのかと聞こうかと思ったが、母が直に帰って来るといったので、別に聞かなくともいいと思い返した。而してただ
越後の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
殉死か、討死か、何方どっちを向いても死の策だったものが、開城と一決して、幾日でもここに生きのびられる欣びだろうかといえば、決してそうではない。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
我々もこうして暢気のんきに遊び歩いていても、二人のうち何方どっちかは運命の頸環に見放された野犬であるかも知れない。
一日一筆 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
われわれは何方どっちも若かったのです。女は、その時分、二十も年上の男と無理強いに結婚をさせられていました。
麻酔剤 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
何方どっちかこの東京を去らなくってはならん。この東京を去るということに就いては、君が先ず去るのが至当だ。何故かとえば、君は芳子の後を追うて来たのだから
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
甲市人 マーキューシオーをころしたやつ何方どちらげました? 人殺ひとごろしのチッバルトは何方どっちげました?
兎角とかくする中に慶三もお千代も何方どっちからが手を出すとも知れず、二人は真暗な中に互に手と手をさぐり合うかと思うと、相方そうほうともに狂気のように猛烈な力で抱合った。
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
たゞごとでないと思うと急にねたましいような心持が加わり、小歌のことか婢のことか、小歌のことらしくない、婢のことらしくない、それでも何方どっちかのことだとして見ると
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
此方こちらの不足を言うのも理窟があるが、向うにもやはり理窟があって、五分五分の理窟であるから、何方どっちが良いかということは、第三者でなければ判決が出来ぬという訳である。
平和事業の将来 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
女の境遇や住宅をさぐり出そうと云う気は少しもなかったが、だんだん時日が立つに従い、私は妙な好奇心から、自分を乗せた俥が果して東京の何方どっちの方面に二人を運んで行くのか
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
二人の少年は組んずほぐれつやっていたが、力が合っているのか何方どっちも倒れない。
庭の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
... 和女おまえが考えても解るだろう、今までのようなおかゆ重湯おもゆを食べさせるのとこんなスープを食べさせるのと何方どっちが身体にきくだろうか」下女「それはモーお粥なんぞは足元あしもとへも追付おっつきません」
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
... 何方どっちにしても私は——」余「ですが、誰が貴女を父上の室へ入れません」秀子
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
そして、従来神田かんだ明神とか、根津権現ねづごんげんとかいったものは、神田神社、根津神社というようになり、三社さんじゃ権現も浅草神社と改称して、神仏何方どっちかに方附けなければならないことになったのである。
何方どっちが善で、何方が悪か、誰が判る? 所詮は、武士というものの辛さだ
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
「お寺もおうちも何方どっちもいいの。でも両方にいるような気がするの。」
幼年時代 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
暫らく紳士的に争った末、何方どっちからともなく半分ずつ出し合うことに妥協した。フリント君の三十弗に自分の三十弗を合わせて、忌々しそうに青年へ渡すと、引換えに、紳士は問題の時計を受取った。
夜汽車 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
「そして、八田潟の鮒といくさをしたら、何方どっちが勝つ?……」
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「お前たちは、何方どっちへこの駕籠を持って行くつもりじゃ」
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「お嬢様! 何方どっちへ行らっしゃるのでございます?」
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「困ったね、何方どっちにしても。どうする君は?」
白蛇の死 (新字新仮名) / 海野十三(著)
何方どっちでもかまわん。おれはる……
ナカナカうは言えないよ。この鉄瓶と銅壷を見ても分るが、如何にも調和が好い。何方どっちにも苦情はないようだ。円満な夫婦らしい。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「煙哨の匂いがひどかったと聴いたもので、——ところで、弾丸は何方どっちから撃ち込んだものです。右ですか、それとも左ですか」
「猛烈には働らけるかも知れないが誠実には働らき悪いよ。食う為の働らきと云うと、つまり食うのと、働らくのと何方どっちが目的だと思う」
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それとも私が人間でなくなるのか? ……何方どっちだか其は分らんが、兎に角互の熱情熱愛に、人畜にんちく差別さべつ撥無はつむして、渾然として一にょとなる。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
文「いや待てよ、何処どこの島へくのか知らぬが、磁石も無ければまともない、何方どっちの方へ往く所存か知らん、困ったものだ」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
節子と彼と、二人の中の何方どっちか一人が死ぬより外に仕方が無いとまで考えて来たその時までの身の行詰りを思って見た。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
正月元日の朝、年礼に出掛けた時に、葬礼に逢うと鶴を台に戴せてかついで来るのを見ると何方どっちいかと云うから、私は
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ここたちまち掴みあいが始まった、上になり下になり、たがいに転げて挑み争ううちに、何方どっちが先に足を滑らしたか知らず、二人は固く引組ひっくんだままで、かたえの深い谷へ転げちた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
何方どっちに変るか自分でも分らないような気分が驀地まっしぐらに悪い方に傾いて来た。気を腐らせれば腐らすほど彼れのやまは外れてしまった。彼れはくさくさしてふいと座を立った。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
東京市の河流はその江湾なる品川しながわ入海いりうみと共に、さして美しくもなく大きくもなくまたさほどに繁華でもなく、誠に何方どっちつかずの極めてつまらない景色をなすに過ぎない。
この老猫おいねこと老嬢は、お互いに理解し合っていた。何方どっちもこうした隠者くさい生活が好きで、長い夏の午後なんか、鎧戸を閉めて、窓布リドオをおろしたへやの中に寂然ひっそりと引籠っていた。
老嬢と猫 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
けれど何方どっちかといえば無愛想な、構わぬ人であった。或時には冷たく見えたのは事実だ。
(新字新仮名) / 小川未明(著)