下口おりくち)” の例文
すぐ川堤かわづつみを、十歩とあしばかり戻り気味に、下へ、大川おおかわ下口おりくちがあつて、船着ふなつきに成つて居る。時に三艘さんぞうばかりながれに並んで、岸の猫柳に浮いて居た。
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
仕方なしに今度は梯子段の下口おりくちの方へ廻って見たが、矢張やっぱり同じこと家中はまるで人のいないも同様である。慶三は無暗むやみ咽喉のどが渇いて堪らなくなった。
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
下口おりくちまでは高く遠く、容易に達しがたく思われたが、上るには難なく思われた。
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
落す詞なり和田峠ののぼりは馬に乘りたれば野々宮高砂のゝみやたかさごなりしがくだりはあなどりて遊び/\歩きたる爲め三里に足らぬと聞くに捗取はかどらぬこと不思議なるうへ下口おりくちはドカ/\と力も足にる故か空腹甚しく餡餅あんもち二盆半の豪傑すら何ぞやらかす物はないかと四方を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
小屋こやて二ちやうばかりくとすぐさかがあつて、さか下口おりくち一軒いつけん鳥屋とりやがあるので、樹蔭こかげなんにもない、お天気てんきのいゝときあかるい/\ちひさなみせで、町家まちやのきならびにあつた。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
電車通を行くことなほ二、三町にしてまた坂の下口おりくちを見る。これすなわち金剛寺坂こんごうじざかなり。文化のはじめより大田南畝の住みたりし鶯谷うぐいすだには金剛寺坂の中ほどより西へ入る低地なりとは考証家の言ふところなり。
礫川徜徉記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
小屋を出て二町ばかりくと、直ぐ坂があって、坂の下口おりくちに一軒鳥屋があるので、樹蔭こかげも何にもない、お天気のいい時あかるいあかるい小さな店で、町家まちやの軒ならびにあった。
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
俺が勝った、と乗掛って、階子段はしごだん下口おりくちとらまえたは可かったですれど、どうですかい。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やしろの柵の横手を、坂の方へ行ったらしいで、後へ、すたすた。坂の下口おりくちで気が附くと、おどかしやがらい、畜生めが。俺の袖の中から、しわびた、いぼいぼのあるあおい顔を出して笑った。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やがてさか下口おりくちて、もう一足ひとあしで、やぶくらがりから茗荷谷みやうがだにようとするとき
山の手小景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
が、矢張やつぱいしげるか、うか、しきり樣子やうすたくつたもんですからね。御苦勞樣ごくらうさまさか下口おりくち暫時しばらくつてて、遣過やりすごしたのを、あとからついてあがつて、其處そこつてながめたもんです。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
わっし下口おりくちまで追掛おっかけたが、どうしていか、途方にくれてくるくる廻った。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)