一匹いつぴき)” の例文
仮初かりそめにも一匹いつぴきの男子たる者が、金銭かねの為に見易みかへられたかと思へば、その無念といふものは、私は……一生忘れられんです。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
床几しやうぎしたたはらけるに、いぬ一匹いつぴき其日そのひあさよりゆるもののよしやつしよくづきましたとて、老年としより餘念よねんもなげなり。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
と、蝋燭ろふそくの火をげて身をかゞめた途端とたんに、根太板ねだいたの上の或物は一匹いつぴきの白いへびに成つて、するするとかさなつたたヽみえてえ去つた。刹那せつな、貢さんは
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
いささかの黄金の木の実のいさかいにけだもの一匹いつぴき斃れたるかな
小熊秀雄全集-01:短歌集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
金魚きんぎよ一匹いつぴきころす。
とんぼの眼玉 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
……馴染なじみなるすゞめばかりでけた。金魚きんぎよつた小兒こどものやうに、しかゝつて、しやがんでると、げたぞ! 畜生ちくしやうたゞ一匹いつぴきも、かげかたちもなかつた。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
宮、おのれ、おのれ姦婦、やい! 貴様のな、心変をしたばかりに間貫一の男一匹いつぴきはな、失望の極発狂して、大事の一生を誤つてしまふのだ。学問も何ももうやめだ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
先刻さつき、もしも、二階にかい欄干らんかんで、おもひがけずいたたゞ一匹いつぴきがないとすると、わたし幾千萬いくせんまんともすうれない赤蜻蛉あかとんぼのすべてを、全體ぜんたいを、まるでらないでしまつたであらう。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
むかうのやまえて、れせまる谿河たにがはに、なきしきる河鹿かじかこゑ。——一匹いつぴきらしいが、やまつらぬき、をくいて、こだまひゞくばかりである。かつて、はなながとき箱根はこねおもふまゝ、こゑいた。
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)