郷愁ノスタルジア)” の例文
ドヴォルシャークはその環境を愛し、ボヘミアらしい空気の中にひたって、僅かに弱い心を打ちひしぐ郷愁ノスタルジアを慰めていたのである。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
……この鴎たちも、せつない郷愁ノスタルジアを運んで行くところがないのだと思って、ながめているうちに悲しくなって、いつも、泣き出してしまうの……
キャラコさん:05 鴎 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
文学の文学らしさを求めるこの郷愁ノスタルジアは、素材主義的な長篇に対置した希望で短篇小説に眼を向けさせ、岡田三郎の伸六という帰還兵を主人公とする連作短篇なども現れた。
昭和の十四年間 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
ドヴォルシャークの曲のすべてが清らかな魂と、正直な心と、豊かな人間愛と、そして優しき郷愁ノスタルジアとにいろどられぬはない。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
日本人だった彼女の母の血に対する敬意と郷愁ノスタルジア。それが、主想モチーフだった。「熔岩メーサ」の岩橋ポン・ド・ロオシュを渡るとき、過失と見せかけて、二人の小銃と弾帯を谷底へ投げ落したのはそのためである。
地底獣国 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
ドヴォルシャークの郷愁ノスタルジアに聴き入って涙するのはわれわれ音楽鑑賞者の最もよき法悦であり、人の世の音楽の、最も清らかな慰藉いしゃでもあるからである。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
私が平次、八五郎を書くと、回顧的だとか退嬰たいえい的だとかいわれるが、それは間違いで、江戸のもつたしなみとか、江戸の所作とか、江戸の郷愁ノスタルジアとか、これを忘れてはいけない。
平次放談 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)