あぶ)” の例文
重たき琵琶びわき心地と云う永い昼が、永きにえず崩れんとするを、鳴くあぶにうっとりと夢を支えて、清を呼べば、清は裏へでも行ったらしい。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
長いこと転々としてその昂ぶった神経を持てあましながら、ラッセルのようにものうあぶの羽音を、目をつぶって聞いている中に、看護婦が廻って来た。
飛んでいるあぶはどうしてお互いに見つけ出すことが出来るのか、それは生物間の通信というものに、「声」と「文字」以上のものがあることを思わせます
宇宙爆撃 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
ごくまれに、むくむくと太ったあぶが、鈍い羽音を響かせながら、もう結実しかけた藤の下を、迷い飛ぶ位のものであった。南風が潮の香をのせてやって来た、それは青々とした海原の風であった。