それから懐中へ手を入れて経木皮包きょうぎがわづつみを一箇取り出しましたが、こんなことをしている間にも、どうやら外の通りを気にかけている様子であります。
桟敷下のむしろの上へ胡坐あぐらをかいて、人集ひとだかりの模様には頓着なく、まず酒樽の酒を片口かたくちへうつして、それを茶碗へさして廻り、そこから蒟蒻こんにゃくや油揚や芋の煮しめの経木皮包きょうぎがわづつみを拡げ、ひやでその酒を飲み廻し
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)