眞正面まとも)” の例文
新字:真正面
平七は怪訝な顏をしながら、膝の下に隱れてゐる金の吸口の煙管を探す風で、座蒲團の右左を手探りつゝ、父の顏を眞正面まともに見てゐた。
父の婚礼 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
谷はいまこの冴えた月のひかりを眞正面まともに浴びて、數知らぬ小さな銀の珠玉をさらさらと音たてゝうち散らしながら眞白になつて流れて居る。
姉妹 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
彼が眞正面まともに向つたときは、その肩の筋肉は青い襯衣の下から盛り上つてゐて、兩腕の附根へ球を二つくツつけてゐた。そしてぎろ/\した大きな鳶色の眼には、荒つぽい、尊大な表情が浮んでゐた。
春まひる眞正面まともの塔の照りしらむ廻縁ゆか高うしてしづかなる土
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
みのるは顏を眞正面まともに返すと一人で又笑つた。
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)