見物人が笑つた。舞台の人物はおとしたものをさがていなにかを取り上げると、突然とつぜんまへとはまつたく違つた態度になつて、きはめて明瞭めいれう浄瑠璃外題梅柳中宵月じやうるりげだいうめやなぎなかもよひづきつとめまする役人………と読みはじめる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)