木賃宿きちん)” の例文
汚い木賃宿きちんだの、馬飼の馬小屋だの、その前に立ってののしっている侍だの、川魚を桶にならべて売る女だの、雑多な旅人の群れだのが、秋のはえと一緒になって騒いでいる。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
江戸へつくと、百は、場末の木賃宿きちんに泊りこんで、あくる日から、小柄の売口をさがしあるいた。——といっても、破門された体なので、刀屋や本阿弥ほんあみすじへは、向けられない。
野槌の百 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
卯木と元成は、いちど木賃宿きちんへもどった。——そしてひでりの夏の一日も、ようやく冷ややかに暮れ沈んできた頃、また出直して、昼のえんじゅの木の下で、約束の兼好けんこうが来るのを待っていた。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)