朦朧おぼろげ)” の例文
朦朧おぼろげながらあの小諸の向町に居た頃のことを思出した。移住する前に死んだ母親のことなぞを思出した。『我は穢多なり』——あゝ、どんなに是一句が丑松の若い心を掻乱かきみだしたらう。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
楽しい追憶おもひでの情は、唐人笛の音を聞くと同時に、丑松の胸の中に湧上わきあがつて来た。朦朧おぼろげながら丑松は幼いお妻のおもかげを忘れずに居る。はじめて自分の眼に映つた少女をとめの愛らしさを忘れずに居る。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)