とぼ)” の例文
そのうへ彼はにつこり目元にとぼけた愛嬌をたたへて、じつとたえ子を見返したが、その目の底には暗い影が隠せなかつた。
復讐 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
「やつぱり酒を飲むのかい。」氷川が言ふと、彼はわざととぼけた不満顔で、「そんな事言ふない」と笑つてゐた。
倒れた花瓶 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
磯村の妻は「さうでしたか。」と言つてとぼけてゐたが、実を告げなかつた彼女の気持は磯村にはわかつてゐた。
花が咲く (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
素朴らしく、しかしどこか抜け目のない彼女はいつものとぼけたやうな調子で答へた。
老苦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
お島はとぼけたような顔でこたえたが、この地面が自分のものになろうとは思えなかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
母はとぼけた手つきで踊りのやうな身振りをして、却つて父を笑はせてしまつた。
風呂桶 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)