性慾せいよく)” の例文
性慾せいよくの、本質的な意味が何もわからず、ただ具体的な事だけを知っているとは、恥ずかしい。犬みたいだ。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
この間或る所で聞いたんだが、若い時分に女遊びをした人間ほど、老人になるときまって骨董こっとう好きになる。書画だの茶器だのをいじくるのはつまり性慾せいよくの変形だと云うんだ
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
打ったりなぐったりしたという春琴のごときは他に類が少いこれをもって思うに幾分嗜虐性しぎゃくせいの傾向があったのではないか稽古に事寄せて一種変態な性慾せいよく的快味を享楽きょうらくしていたのではないかと。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
岩が落ちて来るような勢いでそのひとの顔が近づき、遮二無二しゃにむに私はキスされた。性慾せいよくのにおいのするキスだった。私はそれを受けながら、涙を流した。屈辱の、くやし涙に似ているにがい涙であった。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)