呆然自失ぼうぜんじしつ)” の例文
正義人道を口にするものが、四五人もいて頑張れば、群衆の冷静さを、幾分とりもどせたろうと思われたが、誰もが呆然自失ぼうぜんじしつしていて、適当な処置をあやまったのだった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
たしかに、何者かを追蒐おっかけて出たのだが、その帰り来った時には、いつも呆然自失ぼうぜんじしつです。何物をも認めることなくして出かけ、何物をも得るところなくして帰るのです。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
友人は、呆然自失ぼうぜんじしつしたという。ややあって、くやし涙が沸いて出た。さもありなん、と私は、やはり淋しく首肯している。そうなってしまったら、ほんとうに、どうしようも、ないではないか。
◎真を模せんとして模し得ざりしはいにしえの日本画なり。後世の日本画家、徒に古画を模してかへつて真を模せず。たまたま洋画の如く真を模したる者に逢へば則ち呆然自失ぼうぜんじしつ、その画なりや否やを疑ふ。
病牀譫語 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
音律はある程度まで現わし得るかも知れませんが、音相に至っては、今のところ呆然自失ぼうぜんじしつするばかりです。悲しいことです。この悲しさを今回の旅が、つくづくと私に教えてくれました
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)