入神にゅうしん)” の例文
陵の祖父李広りこうの射における入神にゅうしんの技などを語るとき、蕃族ばんぞくの青年はひとみをかがやかせて熱心に聞入るのである。よく二人して狩猟に出かけた。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
これほどまで物の見事にだまされてしまったのであったから、最早ここに至っては扮装も変装も入神にゅうしんの域に達していると言うの外はなく、ただただ驚歎舌を捲くばかりであった。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
入神にゅうしんの持主とは、そういう一瞬を地上に呼び降ろすひとのことをいう。けれどどんな名人を坐らせても、一方的にそれ独りでは天界の悦楽を地上に降ろすことはできない。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夫人は自らの作りあげた入神にゅうしんの技が、かくも自らを苦しめるものとは今の今まで考えなかった。もしこんなことがあると知っていたら、もっと不完全な程度にとどめるのがよかった。
ヒルミ夫人の冷蔵鞄 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)