佐野松さのまつ)” の例文
「鈴川主水の女房はお葉だぜ——去つた女房にしても、その女と逢引を重ねてゐる佐野松さのまつが、憎くないことはあるまい」
中橋の佐野松さのまつへつれて往くこと度々であつた。しかし此癖好へきかうは恐くは源を抽斎先生に発したものであつたらしい。抽斎先生は佐野松の主な顧客であつた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
言ひにくかつたら、俺が代りに言つてやらうか、——お前は何にかのわけがあつて、時々姿を變えて、螢澤ほたるざはに通ひ、鈴川家の弟佐野松さのまつと逢つてゐた。
佐野松さのまつが女を引入れた樣子はなく、出て行く姿を見たものもないといふのに、良い男の佐野松が、時々女を引入れて、人知れず逢引を重ねてゐたことは疑ひもなかつたのです。