不拘かゝはらず)” の例文
そして、明るい街を歩く時は、頭腦が紛糾こんがらかつて四邊あたり甚麽どんな人が行かうと氣にも止めなかつたに不拘かゝはらず、時として右側にれ、時として左側に寄つて歩いて居た。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
今日自分が偶然路上で出會でくわした一事件——自分と何等の關係もないに不拘かゝはらず、自分の全思想を根柢から搖崩ゆりくづした一事件——乃ち以下に書き記す一記事を、永く/\忘れざらむためであつたのだ。
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
それは、隨分手酷い反抗のあつたに不拘かゝはらず、飄然として風の如く此職員室に立ち現はれた人物が、五尺二寸と相場の決つた平凡人でなくて、實に優秀なる異彩を放つ所の奇男子であるといふ事だ。
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
自白すると自分の如きも昔二十幾人の教師に教を享けたるに不拘かゝはらず、今猶しみ/″\と思出して有難さに涙をこぼすのは、唯此鹿川先生一人であるのだ。今日の訪問の意味は、云はずと解つて居る。
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)