い「本当に嬉しゅうございます、わたくし一生奉公いっしょうぼうこうをしても時節を待ちますから、お身を大事に重二郎さん、あなた私を見捨てると聴きませんよ」
しかし体を売ったと云っても、何も昔風に一生奉公いっしょうぼうこうの約束をしたわけではありません。ただ何年かたって死んだのち、死体の解剖かいぼうを許す代りに五百円の金をもらったのです。
温泉だより (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)