驀地まっしぐら)” の例文
も口の中、耳も早けりゃ脚も早い、おりから風さえ加わって横ざまに降りしきる霙を衝いて、三次は驀地まっしぐらに駕籠を追って走った。
大空の熱度激変せし為なるべし太西洋の面よりき起こりたる疾風、驀地まっしぐらに欧羅巴を襲い来たり、すさまじき勢いにて吹きあおれり。
暗黒星 (新字新仮名) / シモン・ニューコム(著)
大工道具を担いでいたそうだが、どうも挙動が怪しいというので、押えようとすると大工道具を投棄てるが早いか驀地まっしぐらに構内へ逃込んだ。
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それを無意識に拾いあげると右手にぐっと握りしめ、林の中からとびだした。そして正面に見える池谷控家へむかって驀地まっしぐらにかけだした。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
はっと思った拍子に彼は、たった今大急ぎでそこに来かかったのだというような早足で、驀地まっしぐらに板橋を渡りはじめていた。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
余はきょうじょうじた。運転手台に前途を睥睨へいげいして傲然ごうぜんとして腰かけた。道があろうと、無かろうと、斯速力で世界の果まで驀地まっしぐらに駈けて見たくなった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
再びヨボヨボと歩き出すと、ひとしきりの風が驀地まっしぐらに道の砂を捲いて老翁を包んだ時は深き深き空想を呼起こした。
(新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そしてただ裸一箇の自分となり独力、座禅思惟の一法によってかの解脱を掴むか掴まえぬか、面と向った真剣の勝負に驀地まっしぐらに突き進むこととなった。
宝永噴火 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
朝早く農鳥のうとり岳の北の野営地を出発、南へ農鳥岳、広河内ひろごうち岳、白河内岳と縦走を続け、時間が遅くなったので其処そこから驀地まっしぐらに東俣の谷へ下り込みました。
日本アルプスの五仙境 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
たたたたたっ結び矢来に沿って驀地まっしぐらに近づきながら、つと馬上に伸び上り、狙い定めてふっと一の矢を射て放った。
備前名弓伝 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
たちまちどれもこれもが、所謂いわゆる『犬の舵』と呼ばれる尻尾を高々とあげて驀地まっしぐらに駈けよって、お客を迎えると、一同に向って挨拶をしはじめたものである。
日程によると宇治を見物する筈だが、秘書役二人の不在中に何う模様が変ったのか、僕達は驀地まっしぐらに京都へと志した。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
汽車は急行で、東方へ向って驀地まっしぐらに走っている。しばらくの間無言でいた妻は、その時何の前置もなしに僕にむいた。そして二人はこういう会話をした。
(新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
音のようすでその辺りに巨大な穴でも開いていて、そうして大河が驀地まっしぐらにそれへ落ち込んでいるようであった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
向うの平地へ驀地まっしぐらに走る、森は孤立した小島になる、水楊が川のほとりにちょんぼりと、その蒼い灰のような、水銀白を柔らかにいた薄葉を微風にうらえしている
梓川の上流 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
門口でこういいてて、城内めがけて驀地まっしぐらに走り出した頃に、諸所の小屋から、同じような身分の士や、その妻子が外へ出て、くるくると空を仰いで騒ぎ出していた。
討たせてやらぬ敵討 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
雨が降り出したとみえて、窓硝子ガラスがすっかり曇っている。私は指先で曇りを除いて外を見た。汽車はどこを走っているのだろう、ただ暗闇の中を驀地まっしぐらに進んで行くのだ。
むかでの跫音 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
折柄、墓石の下に永久とこしえの安い眠りについている霊を驚かすように一台の大型自動車がけたゝましい爆音を上げて、この大崎町の共同墓地を目がけて、驀地まっしぐらに駆けつけて来た。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
すなわち裏の垣より忍び入りて窠宿とや近く往かんとする時、かれ目慧めざとくも僕を見付みつけて、驀地まっしぐらとんかかるに、不意の事なれば僕は狼狽うろたへ、急ぎ元入りし垣の穴より、走り抜けんとする処を
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
病身で鼠のやうに気の弱い伊豆のもとへ驀地まっしぐらに躍り込み、おつ被せるやうにして、「むむ、ああ、もう俺はあのけつたいな女詩人を見るのも厭になつた」痴川は顔を大形おおぎょうに顰めて
小さな部屋 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
鯛六の弱り抜いた足は、エレキを掛けられたように動いて、驀地まっしぐらに横山町の上州屋へ
馬博士は帽子を掴潰つかみつぶして狂人きちがいのように振回す。樺は奮進の勢に乗って、すさまじく土塵つちぼこりを蹴立てました。それと覚った源が満身の怒気は、一時に頭へ衝きかかる。如何いかんせん、樺は驀地まっしぐら
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
見ると、モーターボートは、岬の蔭で方向を転じたと見え、湖水の中心に向って、驀地まっしぐらに進んで行く。船尾にうずくまる黄金仮面の異様な姿は、巨大な金塊の様に、ギラギラと輝いて見える。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
このことがなくっても、馬があばれこまなくても、もう大方の雲行きで感得されるのですが、馬が驀地まっしぐらに駈け込んで来たので、群衆も、鳴り物も、雨乞いの祭の庭もあったものではありません。
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
例えば競馬に於ても第一の騎者がすでに勝利を得べく自らも信じ見物人も思う時、左右より驀地まっしぐらに追い付き来って三人競争となり、火花を散らして駆け来るうち、一人が鞭を挙げて打ちたりとせよ。
世界平和の趨勢 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
「いいですか。じャ、ひい、ふう、みいで驀地まっしぐらに飛びだすんですぜ」
帆村は驀地まっしぐらに橋の上をかけぬけた。それから山道に懸ったが、やっと前方に怪人の乗った自動車の姿をチラと認めた。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それにくらべて、いつまでも処女性を持ち、いつになっても感情のまま驀地まっしぐらに行くかの女の姿を見ると、何となく人生の水先案内のようにも感じられた。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
しかしながらかねてからある不安なしにではなく考えていたことが、驀地まっしぐらに近づいてきているような一種の心の圧迫を感じ始めているのは明かだった。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
これから足場の悪い岩の痩尾根を辿って、甲信駿三国の境に近いあたりから、野呂川の谷を驀地まっしぐらに下り始めた。
それから国土は下り坂になって、汽車は南方の平野に向って驀地まっしぐらに走った。して見ると、ドナウはやはり高原を流れていたのだということを僕はおもった。
ドナウ源流行 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
一方宇都宮治部大輔公綱は、東の空の白むと見るや、七百余騎を引率し、天王寺さして驀地まっしぐらに押し寄せ、古宇都こうづの民家へ火をかけて、ときの声をドッとあげた。
赤坂城の謀略 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
脇田はひーいと両手で耳をふさぎ、なにか訳のわからないことを叫びながら、驀地まっしぐらに廊下へとびだしていった。
山椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そして放課の鐘が鳴ると同時に、驀地まっしぐらに駈け出して、彼は誰よりも先きに三角帽を教師に取ってやった。
と俊一君は驀地まっしぐらに駅へ向った。都合よく殆ど待たずに乗り込んでから、続けざまに溜息をついた。
嫁取婿取 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
病身で鼠のように気の弱い伊豆のもとへ驀地まっしぐらに躍り込み、おっかぶせるようにして、「むむ、ああ、もう俺はあのけったいな女詩人を見るのも嫌になった」痴川は顔を大形おおぎょうしかめて
小さな部屋 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
新三郎は、飛立つ思い、旅装束のまま、駕籠かごを二挺呼んで、驀地まっしぐらにお茶の水へ——。
さりとて残し置かんも口惜し、こは怎麼いかにせんと案じ煩ひて、霎時しばしたたずみける処に。彼方あなたの森の陰より、驀地まっしぐら此方こなたをさしてせ来る獣あり。何者ならんと打見やれば。こは彼の黒衣にて。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
夫人は先に立って円タクを交渉し、京浜国道を驀地まっしぐらに大森の方へ走らせた。
情鬼 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
足は驀地まっしぐらに玉島の家へ向っていた。
罠に掛った人 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
はっと驚く暇もなく彼女は何所どこともわからない深みへ驀地まっしぐらに陥って行くのだった。彼女は眼を開こうとした。しかしそれは堅く閉じられて盲目めしいのようだった。
クララの出家 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そのあとから、真夜中ながら弥次馬やじうまのおしよせてくる気配けはいがした。私は弥次馬に追越されたくなかったので、驀地まっしぐらに駈けだした。今度は大丈夫走れるぞと思った。
西湖の屍人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
見ると褐色の群が花を蹴散らして、驀地まっしぐらに谷の方へ駆け下りて行く。それで漸く鹿だなと安心する。
鹿の印象 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
祐吉は裸馬の背へひらり跨がると、側に伸びていた梅の枝を折取おりとって鞭代り、ピシリとひと当て呉れて——驀地まっしぐらに門から出て行った。まるで疾風のような速さである。
天狗岩の殺人魔 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
新太郎君も親の安心と自分の本務を考えないではないが、美しい賞品が更に大きい動機を為していたから、一月半も驀地まっしぐらに走った今日、一向それに近づけなくては励みがない。
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
おまえは、決しておくしてはならない。負けてはならないぞ。そしてこの重荷を届けるべきところにまで驀地まっしぐらに届けることだ。わき見をしてはかえって重荷に押しつぶされて危ないぞ。
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
馬上でピッタリ男女の者が、縋るようにして抱き合ったが、キューッと、ひと締め! 馬を締めた! タッタッタッ! タッタッタッ! 野花を蹴散らし砂塵を上げ、走る走る驀地まっしぐら
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「鳥のおつこちるところが見たいんですわ。濡れた綿のやうな空の奥から、長い頸を下へまつすぐに延して、翼を張りひろげて、驀地まっしぐらに墜落するのですつて。どんなに素敵でせう……」
(新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
万七にしてやられて、ガラッ八の八五郎は、驀地まっしぐらに神田へ取って返しました。
汽車は闇を驀地まっしぐらに走っている。
急行十三時間 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)