香気かおり)” の例文
旧字:香氣
板敷きになった酒店の方から酒の香気かおりの通って来る広い囲炉裏ばたのところで、しばらく半蔵は遺族の人たちと共に時を送った。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「おお、かあさんや、」とおとうさんがった。「あすこに、綺麗きれいとりが、こえいているよ。がぽかぽかとして、なにもかも、肉桂にくけいのようなあま香気かおりがする。」
すし香気かおりぷんとして、あるが中に、硝子戸越ガラスどごしくれないは、住吉の浦の鯛、淡路島のえびであろう。市場の人の紺足袋に、はらはらと散った青い菜は、皆天王寺のかぶらと見た。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おいしいヤシの実だの、パイナプルだの、バナナだの、赤と紫の大きな花だの、香気かおりのいい草だの、又は、大きい、小さい鳥の卵だのが、一年中、どこかにありました。
瓶詰地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それで、たちまち、なんともいえない香気かおり恍惚うっとりとなってしまって、ちょうは、あとさきのかんがえもなく、その真紅まっか花弁かべんいつけられたように、そのうえりてまったのです。
ちょうと怒濤 (新字新仮名) / 小川未明(著)
半蔵はまるでうそのように好きな物にありついて、盃にあふれるその香気かおりをかいだ。そして元気づいた。お民はその夫の顔をながめながら
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
つきったときに、おかみさんは、杜松ねずしたきましたが、杜松としょうあま香気かおりぐと、むねそこおどつようながしてて、うれしさにわれしらずそこへひざきました。
その額はやはり柴忠さんの工夫で厚い硝子張りの箱に封じた上から唐金からかねの網に入れて、絵馬堂の東の正面に、阿古屋の琴責めの人形と並んで上がったのですが、檜の香気かおりのために
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
売り出した新酒の香気かおりは、伊之助が宿役人のはかまをぬいで前掛けにしめかえるところまで通って来ていた。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
君、白い鈴のように垂下った可憐かれんな草花の一面に咲いた初夏の光に満ちた岡の上を想像したまえ。私達は、あの香気かおりの高い谷の百合ゆりがこんなにえている場所があろうとは思いもよらなかった。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)