たぐ)” の例文
そして今にあれで地球磁気の原因が分るはずなんだと言うと、中には「まさ団栗どんぐりのスタビリティを論じて天体の運動に及ぶたぐいだね」
かゝるものは最も是にたぐふが故に最も是が心にかなふ、萬物を照らす聖なる焔は最も己に似る物の中に最も強く輝けばなり 七三—七五
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
そのほか土蔵のなかの骨董こっとう什器じゅうきたぐひから宝石類に至るまで、ほとんど洗ひざらひ姉さまのところへ運び出されたやうな感じでした。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
のどかわいた人たちがいないというわけでもなかったが、その渇きは水甕みずがめよりもむしろ酒びんをほしがるようなたぐいのものだった。
その上このあたりには昼間でも時とすると狐狸こりたぐいが出没すると云われ、その害をこうむった惨めな話が無数に流布されている。
ゼーロン (新字新仮名) / 牧野信一(著)
フランス魂の幻像——たてをもってる窈窕ようちょうたる処女、やみの中に輝く青い眼のアテネ、労働の女神、たぐいまれなる芸術家、または
朝廷にたぐい少なき文学者であったところからして、御製の讃等を遊ばす時には、実隆は多く御談合を受けて意見を奏上した。
おこしけるはおそろしとも又たぐひなし寶澤は此事を心中に深くし其時は然氣さりげなく感應院へぞ歸りけるさてよく年は寶澤十二歳なり。
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
これこそたぐい稀れな犯人の狡智こうちの手段でありまして、この置き残された鈴一つに、歌川一馬先生を自殺の形で殺す時の用意がこもっていたのです
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
文「これは高麗国の亀の甲だというが、たぐい稀なる物……これは名作だ、結構な物、どうしてこれを御所持でございます」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
唯だこの一刹那の意識、かも自ら顧みるに、其は決して空華幻影のたぐひにあらず。鏗然かうぜんとして理智を絶したる新啓示として直覚せられたるなり。
予が見神の実験 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
みつ、酒、胡椒こしょう、味の素、ソースのたぐいを巧みに注ぎかけねばならぬところの、ちょっと複雑な操作を必要とするものは、私は美佐子に調理を頼んだ。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
Kは報告の中にまったく新しいたぐいの提案をはさんだが、これはきっと支店長代理に特別な効果があるものと思った。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
たぐまれなる優雅さと、さらに、その人間的な高さが、リストをしてあらゆる人の「崇敬の的」たらしめたのであろう。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
女は、このたぐいで、この若き獣神が生きとし生けるものの醜悪の底の味いを愛惜し、嘗め潜って来たであろうことを察して、悪寒おかんのある身慄いをした。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
午前五時といいますと、夜色がやっと明け放れまして早晨そうしん爽気そうきが漂うております。鳥の声が近く聞こえますが、虫などのたぐいはまだ出てまいりません。
なぜなら、こういうたぐいの問題について後年、筆者みずから銀公の才能がいかに非凡であったか、ということを身にしみて感じた経験があるからである。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ミチは彼女の肉体が素晴らしく均整のとれた美しさと、たぐれな色白であることを充分に承知して居るのだ。
刺青 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
黒人というものは、こういったたぐいのつまらぬ使いに行くと、とかく偉そうな振りをして、気取った言葉を使うものだが、この男もその例にもれなかった。
これ皆町の息子親の呼んで当てがう女房を嫌い、傾城けいせいなずみて勘当受け、跡職あとしきを得取らずして紙子かみこ一重の境界となるたぐい、我身知らずの性悪しょうわるという者ならずや
屁理窟へりくつばかりこねて、勤勉な農をダニのようにさまたげている——いわゆる駄農のたぐいには違いないようである。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それでも彼の顔の特徴は昔と変らず目立つものであった。死人のような顔色。大きい、澄んだたぐいなく輝く眼。すこし薄く、ひどく蒼いが、非常に美しい線のくちびる
郵便局で出会ったある知合いの婦人に向かって、彼女がこんなことを言ったとかいうたぐいの事柄だった。
可愛い女 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
上代の文芸を点検しても、古人はいつも海上に向かって「その玉もてこ」というたぐいの歌を詠じている。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
お前の話を黙って聞いていると、まるで狐狸こりたぐいが一変して嬋娟せんけんたる美女にけるのと同じように聞える。まさかお前は、金博士から妖術ようじゅつを教わってきたのではあるまい
広い意味で伊万里といえば、上は柿右衛門色鍋島かきえもんいろなべしまたぐいから下は「くらわんか」や猪口ちょくに至るまでも包含させる。古作品である場合それらのものはとりどりに美しさがある。
北九州の窯 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
でもそれは、人がこの話を知り、その絵を見るときに、それを理解するためには、「母親」という二つの文字をその下に書いておきさえすればいいといったたぐいの迷信です。
かつらならではと見ゆるまでに結做ゆひなしたる円髷まるわげの漆の如きに、珊瑚さんご六分玉ろくぶだま後挿うしろざしを点じたれば、更に白襟しろえり冷豔れいえん物のたぐふべき無く、貴族鼠きぞくねずみ縐高縮緬しぼたかちりめん五紋いつつもんなる単衣ひとへきて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
頭をかきむしッたような『パアポロトニク』(わらびたぐい)のみごとなくき、しかもえすぎた葡萄ぶどうめく色を帯びたのが、際限もなくもつれからみつして目前に透かして見られた。
武蔵野 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
すみれは相撲取花といひて、花と花とうち違ひ、それを引ききりて首のもげたるよと笑ふなり。蒲公英たんぽぽなどちひさく黄なる花は総て心行かず、ただゲンゲンの花をたぐひなき物に思へり。
わが幼時の美感 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
どうせ、素姓のしれぬダイヤなどを持つようではそんなたぐいだろうが、とにかく、なんにもせよ気に入った奴だと、一度打ち込めば飲ませたくなるのが、折竹のような生酔いの常。
人外魔境:05 水棲人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
彼の評価は、今日すでに定まっているけれども、彼の文学は、堂々古典の座に加えられながら、しかもなお、生命の永い「小さなもの」の代表として珍重せられるたぐいのものである。
「光の中を歩め」の中の人々の心持や生活が、たぐいもなく懐しくしたわしいものに思われた。自分にもあんな気持にもなれるし、あんな生活も送れないことはないという気がされたのだ。
贋物 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
詩は音律を重視すべきであると言って、あべこべに僕を説教してくるたぐいである。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
貴方あなたはな、とそれ、かつる。あのまぶたくれなゐふものが、あたかもこれへる芙蓉ふようごとしさ。自慢じまんぢやないが、外國ぐわいこくにもたぐひあるまい。新婚當時しんこんたうじ含羞はにかんだ色合いろあひあたらしく拜見はいけんなどもおやすくないやつ
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
所帯道具がふえたじゃないかと笑った人があるが、たとえば僕が一羽の燕であるとすれば、僕にとって七輪や鍋は燕がその巣を造るために口にふくんでくる泥や藁稭わらしべたぐいに相当するであろう。
落穂拾い (新字新仮名) / 小山清(著)
懐しさたぐうべきものもない——牀几しょうぎから、腰を上げると立ち上がって、両手を見台の上へつくと、毛をむしられたとりの首のような細いたるんだ筋だらけの首を、抜けるだけ長く襟から抜いて
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
人にもさるたぐひはありけりとをかし。鈴虫はふりいでてなく声のうつくしければ、物ねたみされてよはひの短かきなめりと点頭うなづかる。松虫も同じことなれど、じつと伴はねばあやしまるゝぞかし。
あきあはせ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
禹が群神を会稽山に集めたとき、防風氏が後れて来たので、禹はこれを殺した、とか、孔子の額が堯に似、くびが堯の時の大理の皐陶に似、腰より下が禹より三寸短い、とかというたぐいである。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
かなえんとならば、残りなく円卓の勇士を倒して、われを世にたぐいなき美しき女と名乗り給え、アーサーの養える名高きたかを獲て吾もとに送り届け給えと、男心得たりと腰に帯びたる長きつるぎちかえば
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
小賢こざかしき口返答する下郎かな。腹の足しにもならぬ花の種子を蒔きて無用の骨を折らむよりこの間、申し付けし庫裡くりの流し先を掃除せずや。飯粒、茶粕のたぐひ淀みとゞこほりて日盛りの臭き事一方ひとかたならず。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
もしこれよりも小説を書きて世を渡らんとせば先づ文を属する事を習はざるべからす、迷惑がらるるを目をねぶつてこらへ、人の蔵書を借りて読まざるべからず、その書は如何なるたぐひかといへば
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
世語りに人やつたへんたぐひなくき身をさめぬ夢になしても
源氏物語:05 若紫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
人生何物の至樂か能く是れにたぐふべき。
美的生活を論ず (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
この恐怖おそれ何にたぐへむ。ひとみぎり
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
今でいえば科学普及というたぐいであろうが、その先生の話をきいていると、何だか宇宙開闢かいびゃく以前の夢の方が余計に聯想れんそうされやすかった。
『西遊記』の夢 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
それに致しましても此度このたびの兵乱にて、洛中洛外らくちゅうらくがいの諸家諸院の御文書御群書のたぐいの焼亡いたしましたことは、おびただしいことでございましたろう。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
まったく兵士の無頼漢ともいうべきたぐいだった。あたかもそれらの護衛兵は、乞食こじきの卑賤と死刑執行人の権威とを兼ねそなえてるかのようだった。
飲食の喜び、たぐいない幸福、敬虔けいけんな感激、喜悦の小躍こおどり! 快い温かさと、その日の疲れと、親しい声の響きとに、身体はうっとりと筋がゆるんでくる。
き恐れ其不敵なるを感じ世にたぐひなき惡者わるものも有れば有る者とます/\心をかたぶけて兩人とも一味なして寶澤がうん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)