須臾しゆゆ)” の例文
ベルナルドオのきずは命をおとすに及ばざりしかば、私は其治不治生不生の君が身の上なるべきをおもひて、須臾しゆゆもベルナルドオの側を離れ候はざりき。
女人によにんは、たとへば藤のごとし、をとこは松のごとし、須臾しゆゆもはなれぬれば立ちあがる事なし。
四節は追はずして駿馬しゆんめの如くに奔馳ほんちし、草木の栄枯は輪なくして廻転する車の如し。自然は常変なり、須臾しゆゆも停滞することあるなし。自然は常動なり、須臾も寂静あることなし。
万物の声と詩人 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
論じてこゝに到れば、吾人われらは今文明の急流中にさをさして、両岸の江山、須臾しゆゆに面目を改むるが如きを覚ふ、過去の事は歴史となりて、巻をかれたり、往事は之れを追論するも益なし
須臾しゆゆの間に衣冠を正しくして、秀郷を客位にしようず、左右侍衛官しえのかん前後花のよそおひ、善尽し美尽せり、酒宴数刻に及んで、夜既にふけければ、敵の寄すべきほどになりぬと周章あわて騒ぐ、秀郷は
妻の過去を知つてからこの方、圭一郎の頭にこびりついて須臾しゆゆも離れないものは「處女」を知らないといふことであつた。村に居ても東京に居ても束の間もそれが忘れられなかつた。
業苦 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
黙殺か。撲滅か。或は余子の小説集、一冊もいちに売れざるか。かず、すみやかに筆を投じて、酔中独り繍仏しうぶつの前に逃禅たうぜんの閑を愛せんには。昨の非を悔いこんを知る。なん須臾しゆゆ踟※ちちうせん。
いはンヤ吾トなんぢ江渚こうしよノホトリニ漁樵ぎよしようシ、魚鰕ぎよかつれトシ、麋鹿びろくヲ友トシ、一葉ノ扁舟へんしゆうニ駕シ、匏樽ほうそんヲ挙ゲテ以テ相属あひしよくス、蜉蝣ふゆうヲ天地ニ寄ス、びようタル滄海そうかい一粟いちぞく、吾ガ生ノ須臾しゆゆナルヲかなし
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
今はハヤ須臾しゆゆも忍びがたし、臆病者と笑はば笑へ、恥も外聞もらばこそ、予はあわたゞしく書斎を出でて奥座敷のかた駈行かけゆきぬ。けだし松川の臥戸ふしどに身を投じて、味方を得ばやとおもひしなり。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
てう早く起きてふなばたつて居ると、数艘の小船サンパンに分乗して昨夜ゆうべ出掛けた下級船員の大部分が日本娼婦に見送られなが続続ぞくぞく帰つて来る。須臾しゆゆにして異様な莫斯綸もすりん友染と天草言葉とがわが船に満ちた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
石仏は正面まと向きおはし須臾しゆゆに見る空うつしけくはてなかりにし
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
われは平生夢寐むびの間に往來する所の情の、終に散じ終にせうすること此飛泉と同じきを想ひて、忽ち歌ひ起していはく。人生の急湍きふたん須臾しゆゆも留まることなし。
黒雲空を蔽ひて、海面には暗緑なる大波を起し、潮水倒立して一條の巨柱を成せり。須臾しゆゆにして雲をさまり月清く、海面またた平かになりぬ。されど小舟は見えざりき。彼漁父の子も亦あらずなりぬ。