雨上あまあが)” の例文
そこで、大好きな田圃の中でも、選分えりわけて、あの、ちょろちょろ川が嬉しい。雨上あまあがりにちっと水がえて、畔へかかった処が無類で。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
雨上あまあがりの瓦屋根だの、火のともらない御神燈ごしんとうだの、花のしぼんだ朝顔の鉢だのに「浅草」の作者久保田万太郎くぼたまんたらう君を感じられさへすればいのである。
野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
あたしは雨上あまあがりに三枚橋下へ小魚をすくいにいったり、山内へしいの実を拾いにいって、夜になるとおばあさんの不思議な話をききながらってもらって、椎の実の味を知った。
伝右衛門は慌てて其辺そこら掛茶屋かけぢややに駈け込んで雨上あまあがりを待つ事にした。
前に青竹のらち結廻ゆいまわして、その筵の上に、大形の古革鞄ただ一個ひとつ……みまわしてもながめても、雨上あまあがりの湿気しけつちへ、わらちらばったほかに何にも無い。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
白は客の顔をうつしている理髪店りはつてんの鏡を恐れました。雨上あまあがりの空を映している往来おうらいの水たまりを恐れました。往来の若葉を映している飾窓かざりまど硝子ガラスを恐れました。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
雨上あまあがりの広田圃ひろたんぼを見るような、ふなどじょうの洪水めいたが、そのじめじめとして、陰気な、湿っぽい、ぬるぬるした、不気味さは、大河おおかわ出水でみずすごいにまさる。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うしろに見えるのは雨上あまあがりの水田すゐでん、水田の向うは松山でございます。どうか松山の空にかかつた、かすかなにじも御覧下さい。その下には聖霊を現す為に、珠数懸じゆずかはとが一羽飛んで居ります。
わが散文詩 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ひだりたもとがびり/\とさけてちぎれてとれたはづみをくつて、踏占ふみしめたあしがちやうど雨上あまあがりだつたから、たまりはしない、いしうへすべつて、ずる/\とかはちた。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
桜 さつぱりした雨上あまあがりです。もつとも花のがくは赤いなりについてゐますが。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
富士司の御鷹匠は相本喜左衛門あいもときざえもんと云うものなりしが、其日は上様御自身に富士司を合さんとし給うに、雨上あまあがりの畦道あぜみちのことなれば、思わず御足おんあしもとの狂いしとたん、御鷹おたかはそれて空中に飛び揚り
三右衛門の罪 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
なんでも雨上あまあがりの葉柳のにほひが、川面かはもを蒸してゐる時だつた。
動物園 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)