銘仙めいせん)” の例文
銘仙めいせんに黒い帶、こしらへは地味だが、人間はそれよりもまた地味で、ちよいと冗談も言へないが、あんな娘は反つて、情が深いんですつてね。
おまけに階下したが呉服の担ぎ屋とあってみれば、たとえ銘仙めいせんの一枚でも買ってやらねば義理が悪いのだが、我慢してひたすら貯金に努めた。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
さっと開いたふすまとともに、唐縮緬めりんす友染の不断帯、格子の銘仙めいせんの羽織を着て、いつか、縁日で見たような、三ツ四ツ年紀としけた姿。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
高い階段はしごだんを上ってゆくと、柳沢はあのさい体格からだに新調の荒い銘仙めいせんの茶と黒との伝法でんぼう厚褞袍あつどてらを着て、机の前にどっしりと趺座あぐらをかいている。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
妹は二十歳前後の小柄なせた女で、矢絣やがすり模様の銘仙めいせんを好んで着ていた。あんな家庭を、つつましやかと呼ぶのであろう。
彼は昔の彼ならず (新字新仮名) / 太宰治(著)
色糸の入った荒いかすり銘仙めいせんに同じような羽織を重ねた身なりといい、あごの出た中低なかびくな顔立といい、別に人の目を引くほどの女ではないが、十七
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
私は黙って座敷へ帰って、そこに敷いてある布団ふとんの上に横になった。病後の私は季節に不相当な黒八丈くろはちじょうえりのかかった銘仙めいせんのどてらを着ていた。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一体衣服なりには少しも頓着しない方で、親譲りの古ぼけた銘仙めいせんにメレンスの兵児帯へこおび何処どこへでも押掛けたのが、俄に美服を新調して着飾り出した。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
八重と高子は月給を貰うとそれを出し合って新しい銘仙めいせん一反いったん買い、八重は自分のじみな着物を一枚添えて小包にした。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
ほかの子は双子ふたこ綿秩父めんちゝぶや、更紗さらさきやらこや、手織木綿ておりもめんの物を着て居ます中で、南さんは銘仙めいせんやめりんすを着て居ました。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
お銀はせめて銘仙めいせんかメリンスぐらいで拵えてやりたかったが、それを待っていると拵える時が来そうにも思えなかった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それだのに、年頃になったから銘仙めいせんの一枚も買おうという段になって、壊した器物の賠償を私からとった残りの金をみんな提供せよと言うのである。
二十二三に見える長手ながてな顔をした淋しそうな女で、白っぽい単衣ひとえものの上に銘仙めいせんのような縦縞たてじま羽織はおりを引っかけていた。
草藪の中 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
兇行は昨夜八時頃より今暁こんぎょう四時頃までのあいだに仕遂げられたらしく、磯貝は銘仙めいせん単衣ひとえものの上にの羽織をかさねて含満がんまんふちのほとりに倒れていたり。
慈悲心鳥 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ふと、そこに廂髪ひさしがみって、紫色の銘仙めいせん矢絣やがすりを着て、白足袋をはいた十六ぐらいの美しい色の白い娘が出て来た。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
まだ一度も袖を通した事のない銘仙めいせんの、馬鹿馬鹿しいくらい派手な表現派模様のあわせを着まして、妹たちに気付かれないようにソッと家を抜け出しました。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
植峰では、副小頭の峰吉が、お八重を急がせて羽職袴はおりはかまをつけていた。縞の銘仙めいせんに、紋の直径が二寸もある紋付を着て、下にはあたらしいめりやすが見える。
舞馬 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
「お母さん、お正月には金紗きんしゃを一枚拵えて頂戴よ。もう二年生ですもの、銘仙めいせんじゃカルタ会へ出られませんわ」
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
あ「ちょいと私が、お前さんにあわせの表を上げたいと思って持って来たよ、じゃがらっぽいがねえ銘仙めいせんだよ、ぼつ/\してきたならしいけれども着ておくれでないか」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
銘仙めいせんの光る着物を長く着て、帯を腰の下の方に結んで、ロイド眼鏡の鼻にあたるところが橋のようになっているのをかけて、顔は島の人に似合わない白さだった。
石ころ路 (新字新仮名) / 田畑修一郎(著)
服装も地味な銘仙めいせんか何かで、年輩も四十を越していたし、その上容貌は醜婦と云っても差支さしつかえなかった。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
茶がかった飛白かすり銘仙めいせんのそろいを着た華奢きゃしゃな身体に、処女らしい美しさが、みずみずしくにおっていた。
第二の接吻 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
豆菊は、いつもの座敷着とは、すこし袂のみじかい銘仙めいせんの着物を着せられて、髪まで、お下げ髪に改められていた。賢い彼女の眼も、すこし、きょとんとしていた。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
メリンスとか銘仙めいせんのようなもので不断着ふだんぎにヒフをつくって着るのは温かでいいだろうと考えます。
着物雑考 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
秩父はその銘仙めいせんで名を成しますが、昔のような太織ふとおりはもうほとんど影をひそめました。伊勢崎は同じ銘仙一点張りで進んでいますが、これに対し桐生きりゅうは何でも作ります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
もっとも後は向いたと云う条、地味じみ銘仙めいせんの羽織の肩には、くずれかかった前髪まえがみのはずれに、蒼白い横顔が少し見える。勿論肉の薄い耳に、ほんのり光がいたのも見える。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そして男物の銘仙めいせんの綿入を、それからせッせと縫いにかかったが、ものの一時間もそうしているうちに、直ぐ又心配になって来るので、ときどき様子に気を付けていると
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
しかし、それにしても乗っているのが青バスであるのに、服装がどうも自分の想像している名代なだい女優というものの服装とはぴったり符合しない。多分銘仙めいせんというのであろう。
初冬の日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
伊勢崎いせざき銘仙めいせん屋とかいうのなら聞こえた話ですが、上方の絹商人とはあまり耳にしないことばでしたから、早くもいっそうの疑いを深めて、さらに屋内の様子を尋ねました。
幾度水にくゞツたかと思はれる銘仙めいせんあはせに、新しい毛襦子けじゆすえりをかけて、しやツきりした姿致やうす長火鉢ながひばちの傍に座ツてゐるところは、是れが娘をモデルに出す人柄ひとがらとは思はれぬ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
浅倉屋は、このごろその店舗の一部をさいて新刊書の小売をはじめたのである。さがみやもまたいままでの店舗を二つに仕切って「めりんすと銘仙めいせん」の見世を一方にはじめたのである。
雷門以北 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
そう申してはなんですが、まずこの辺の田舎では、いくら上等な蒲団でも銘仙めいせんがせいぜい、郡内ぐんないときては前橋あたりの知事様のお出でになる宿屋か待合ぐらいのものでございましょう。
蒲団 (新字新仮名) / 橘外男(著)
それと引違えてしずかに現れたのは、むらさきの糸のたくさんあるごくあらしま銘仙めいせんの着物に紅気べにっけのかなりある唐縮緬とうちりめんの帯をめた、源三と同年おないどしか一つも上であろうかという可愛かわいらしい小娘である。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
御用の階数を早く仰有おっしゃって下さいまし、二階御用の方はございませんか。化粧品靴鞄ネクタイ御座います。三階木綿類もめんるい御座います。お降りございませんか。次は四階絹織物きぬおりもの銘仙めいせん羽二重はぶたえ御座います。
遊星植民説 (新字新仮名) / 海野十三(著)
うち見窄みすぼらしかったが、主人も襟垢えりあかの附た、近く寄ったら悪臭わるぐさにおいぷんとしそうな、銘仙めいせんか何かの衣服きもので、銀縁眼鏡ぎんぶちめがねで、汚いひげ処斑ところまだらに生えた、土気色をした、一寸ちょっと見れば病人のような、陰気な
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
澤は黙ってうなずきながら、目の前に倒れている屋根の下に、紫矢飛白やがすり銘仙めいせんの着物に赤い唐縮緬とうちりめんの帯をした乙子を抱いて、白地に秋草模様のゆかたを着た養子が死んでいるのだと思って暗然とした。
九月一日 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
銘仙めいせんに黒い帯、拵えは地味だが、人間はそれよりもまだ地味で、ちょいと冗談も言えないが、あんな娘は反って、情が深いんですってね。
ほうしょの黒の五つ紋(借りもの)を鴨居かもいの釘に剥取はぎとられて、大名縞とて、笑わせる、よれよれ銘仙めいせんの口綿一枚。素肌の寒さ。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そうして宗助の持って帰った銘仙めいせん縞柄しまがら地合じあいかずながめては、安い安いと云った。銘仙は全くしないものであった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そう思うと、お前の顔容かおかたちから、不断よく着ていたあの赤っぽい銘仙めいせん格子縞こうしじまの羽織を着た姿がちらりと眼に浮んだ。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
銀子も言っていたのだったが、ある時越後えちごの親類の織元から、子供たちに送ってくれた銘仙めいせんを仕立てて着せた時の悦びも、思い出すと涙の種であった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
青いタオルの寝巻に、銘仙めいせん羽織はおりをひっかけて、ベッドに腰かけて笑っていた。病人の感じは少しも無かった。
(新字新仮名) / 太宰治(著)
はでな花模様はなもよう銘仙めいせんあわせにきちんと帯つきで、ミサ子はこれからどこかへ出かけそうなかっこうに見えた。あらたまったあいさつのあと、きゅうに親しさをみせて
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
紫の目立つ銘仙めいせんかなにかの華美はでな模様のついた衣服きもので、小柄なその体を包んでいた。ちょっと小間使か女学生かと云うふうであった。色の白い長手ながてな顔に黒い眼があった。
蟇の血 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
御重役でも榊原様では平生へいぜいは余りなりはしない御家風で、下役の者は内職ばかりして居るが、なれども銘仙めいせんあらい縞の小袖に華美はでやかな帯をめまして、文金の高髷たかまげ
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
純粋な羞恥しゅうちの血を頬に上らせながら、まるで弟にでも対するように、ちょいと大井をめると、そのまま派手な銘仙めいせんたもとひるがえして、匇々そうそう帳場机の方へ逃げて行ってしまった。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
古ぼけた銘仙めいせんかなんか着ていて、おかしな云い方ですがいくらか立勝たちまさって見えたでしょうし、決してほかの人達の様に険悪ではなかったのですから、それが彼を安心させたと見えます。
モノグラム (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
蒲団の包みは、木綿の敷蒲団が二枚、毛布が一枚、ガス銘仙めいせんの上蒲団が一枚、ゆき子は、胸のなかがぬくぬくとする感じで、さつそく、インバネスと小豆は、駅のそばのマアケットで売り払つた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
そういって、倭文子は銘仙めいせんのたもとの袖で急に顔をおおった。
第二の接吻 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
静かに一礼して上げた顔は、その辺の商売人にも滅多にない容色きりょうで、髪形、銘仙めいせんの小袖、何となくただの奉公人ではありません。