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逸
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そ
ふりがな文庫
“
逸
(
そ
)” の例文
彼女は朝田の話を横道に
逸
(
そ
)
らし得る自信を持てなかった。失礼な! 失礼な! と心の中で叫びつづけながら、彼女は黙りつづけた。
猟奇の街
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
しかし
作者
(
わたし
)
はしばらくの間物語の筋を横へ
逸
(
そ
)
らせ、
青木原
(
あおきがはら
)
で陶器師と別れた高坂甚太郎の身の上について少しく説明しようと思う。
神州纐纈城
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
俯向きながら汗を拭いている私の顔に探偵は
怪訝
(
けげん
)
そうな眼を
瞠
(
みは
)
っていたが、やがて卓上に腕を組みながら気の毒そうに視線を
逸
(
そ
)
らせた。
陰獣トリステサ
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
訪問をした紳士淑女たちが人道をただ足だよりでさぐり、いつ曲がったのか気がつかずに半マイルも自分たちの道から
逸
(
そ
)
れたこともある。
森の生活――ウォールデン――:02 森の生活――ウォールデン――
(新字新仮名)
/
ヘンリー・デイビッド・ソロー
(著)
その
詠歎
(
えいたん
)
を終りとして、私達は暗然と項垂れ合い、扨て私は窓の外へ目を
逸
(
そ
)
らして、今にも空気になろうとする私の身体を感じつづけていた。
母
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
▼ もっと見る
「それは……」といいかけたドレゴは、後の言葉を
咽喉
(
のど
)
の奥にのみこんだ。そして彼は視線をホーテンスの顔から
逸
(
そ
)
らせた。
地球発狂事件
(新字新仮名)
/
海野十三
、
丘丘十郎
(著)
人はなさけの深みにどうしても
蹤
(
つ
)
いてゆかねばならないように出来ていて、それを
逸
(
そ
)
らすことができないようになっているものでございます。
津の国人
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
七本目とつづいて三本は途方もないところへ
逸
(
そ
)
れ飛んで、八本目にようやく的中、九本目十本目は、
弓勢
(
ゆんぜい
)
弱ったか、へなへなと地を這いながら
旗本退屈男:07 第七話 仙台に現れた退屈男
(新字新仮名)
/
佐々木味津三
(著)
今度は楕円形な
翳
(
かげ
)
が横合から出て来て、煙の様に動いて、もと来た横へ
逸
(
そ
)
れて了ふ。ト、淡紅色の
襖
(
からかみ
)
がスイと開いて、真黒な髭面の菊池君が……
菊池君
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
頭こそ下げないが——手こそつかえないが——信長は正直にいって、はやくその問題から話を
逸
(
そ
)
らしたいような顔をした。
新書太閤記:06 第六分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
禽
(
とり
)
は横に
逸
(
そ
)
れて、
截
(
き
)
られた羽が、動揺した空気に白く舞った、一行手取りにするつもりで、暫く追いかけて見たが、掌中の物にはならなかった。
白峰山脈縦断記
(新字新仮名)
/
小島烏水
(著)
この時、クランチャー君の注意は、さっきの手紙を片手に持ってロリー氏の方へ歩いて行くのが見える門番に
逸
(
そ
)
らされた。
二都物語:01 上巻
(新字新仮名)
/
チャールズ・ディケンズ
(著)
「……!」ずっと立ったままの美佐子が、私を
険
(
けわ
)
しく見据えた。私は眼を
逸
(
そ
)
らせ、「子」の字をパクリと口の中へ入れた。
如何なる星の下に
(新字新仮名)
/
高見順
(著)
白い球が、固い音を立てて道にはずみ、女の
掌
(
て
)
と路面とを往復する。ふと、球が横に
逸
(
そ
)
れた。彼は、それを拾い上げた。
待っている女
(新字新仮名)
/
山川方夫
(著)
被造物
(
つくられしもの
)
またしば/\この路を離る、そはこれは、かく
促
(
うなが
)
さるれども、もし最初の刺戟僞りの
快樂
(
けらく
)
の爲に
逸
(
そ
)
れて 一三〇—
神曲:03 天堂
(旧字旧仮名)
/
アリギエリ・ダンテ
(著)
今若し劔を執つて人と相鬪つて居るとすれば、一念の
逸
(
そ
)
れると同時に、斬り殺されて仕舞ふべきなのであるでは無いか。
努力論
(旧字旧仮名)
/
幸田露伴
(著)
話が
逸
(
そ
)
れるが、いつも男女間の愛とさえ言えば、すぐ劣情とか痴情とか言って暗々の
裡
(
うち
)
に非難の声と共に葬り去ろうとする習慣を不快に思うと言い
芳川鎌子
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
窮乏の真の原因とその徹底した打開策とを大衆の目から
逸
(
そ
)
らさせようとしていることに立腹を示したものであった。
村からの娘
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
悲しみを
逸
(
そ
)
らし散らしてくれるものがいくらでもある。若い人たちの悲しみはどうだろう。その精神がどんどん成長して、すぐに傷口をとじてしまう。
寡婦とその子
(新字新仮名)
/
ワシントン・アーヴィング
(著)
部屋の扉が少しではあるがはげしく開かれて、外から一人の小使がせかせかした声で呼んでいるのに、
逸
(
そ
)
らされた。
ウィリアム・ウィルスン
(新字新仮名)
/
エドガー・アラン・ポー
(著)
「おお」と云つて片隅へ
他
(
た
)
の
女客
(
をんなきやく
)
と一緒に避ける
間
(
ま
)
もなく発射せられた一発は窓
硝子
(
がらす
)
を
裂
(
さ
)
いて
外
(
そと
)
へ
逸
(
そ
)
れて
仕舞
(
しま
)
つた。
巴里より
(新字旧仮名)
/
与謝野寛
、
与謝野晶子
(著)
カーヴになったところを曲がると、愛一郎とカオルが乗って出た車が、国道から
逸
(
そ
)
れた袋のような谷の奥の崖に、のしあげるようなかっこうで止っていた。
あなたも私も
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
弾は
撃
(
う
)
ち
人
(
て
)
以上に慌てて飛んでもない方角へ
逸
(
そ
)
れて往つた。すると直ぐ
後
(
うしろ
)
から江川がずどんと口火をきつた。猪は急所を撃たれてその儘
平伏
(
へたば
)
つてしまつた。
茶話:03 大正六(一九一七)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
そこからかすかに
覗
(
うかが
)
われる井の中の
様
(
よう
)
な病房の奥に二人三人の人間の着物の
袖
(
そで
)
か
裾
(
すそ
)
かが白くちらちらと動いて見えました……私はあわてて目を
逸
(
そ
)
らしました。
病房にたわむ花
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
位置
(
ゐち
)
がさういふ
逐
(
お
)
ひやられたやうな
形
(
かたち
)
に
成
(
な
)
つて
居
(
ゐ
)
る
上
(
うへ
)
に、
生活
(
せいくわつ
)
の
状態
(
じやうたい
)
から
自然
(
しぜん
)
に
或
(
ある
)
程度
(
ていど
)
までは
注意
(
ちうい
)
の
目
(
め
)
から
逸
(
そ
)
れて
日陰
(
ひかげ
)
に
居
(
ゐ
)
ると
等
(
ひと
)
しいものがあつたのである。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
また脇道に
逸
(
そ
)
れたが、男の美味いとするまぐろの
刺身
(
さしみ
)
の
上乗
(
じょうじょう
)
なものは、牛肉のヒレ、
霜降
(
しもふ
)
りに当たるようなもので、一尾の中、そうたくさんあるものではない。
鮪を食う話
(新字新仮名)
/
北大路魯山人
(著)
鳥羽田 忠太郎とか申す奴、まさか途中で
逸
(
そ
)
れはしまいな。もし逸れでもすると、折角の三両が水の泡だ。
瞼の母
(新字新仮名)
/
長谷川伸
(著)
わざと、チンカラカラカラと雀を鳴らして、これで出迎えた女中だちの目を
逸
(
そ
)
らさせたほどなのであった。
貝の穴に河童の居る事
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
話が
逸
(
そ
)
れると戻り
悪
(
にく
)
くなりますから、なるべく本流を
伝
(
つた
)
って、筋を離れないように進む事にしましょう。
行人
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
ガラツ八の八五郎は平次の申附けに反き兼ねた樣子で、途中からどこともなく
逸
(
そ
)
れてしまひました。
銭形平次捕物控:136 鐘五郎の死
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
猶更
(
なほさら
)
小便の音が
引立
(
ひつた
)
つわけだ。どうしたものかと考へた末、八は一生の智恵を絞り出して、椿の木の幹にしかけた。それでもをりをり
逸
(
そ
)
れてしゆつと云ふことがある。
金貨
(新字旧仮名)
/
森鴎外
(著)
たびたび目は本から
余所
(
よそ
)
へ
逸
(
そ
)
れて、遠い所を見詰めている。毎日の話しは平凡な事ばかりになった。
みれん
(新字新仮名)
/
アルツール・シュニッツレル
(著)
一番困ることは、余り肉体的と同時に精神的に疲れてしまうと、目的が良い場面を撮ることから
逸
(
そ
)
れて、良い場面を撮るために行動することに変ってしまうことである。
映画を作る話
(新字新仮名)
/
中谷宇吉郎
(著)
太物の行商を始めてから二十年にもなるが、許生員は滅多に蓬坪の市を
逸
(
そ
)
らしたことはなかった。
蕎麦の花の頃
(新字新仮名)
/
李孝石
(著)
それにもかかわらず自己制圧の手の下から
逸
(
そ
)
れて僅に表面にあらわれて来たのが、例の難渋なあそびである。現実離れのした
遊刃
(
ゆうじん
)
余りありというようなわけではあるまい。
夢は呼び交す:――黙子覚書――
(新字新仮名)
/
蒲原有明
(著)
私は、ある一種の皮肉な気持よりも、たまらない感じに襲はれて、視線を
逸
(
そ
)
らしたものだ。
大凶の籤
(新字旧仮名)
/
武田麟太郎
(著)
千々岩は懲りずまにあちこち
逸
(
そ
)
らす浪子の目を追いつつ「浪子さん、
一言
(
ひとこと
)
いって置くが、秘密、
何事
(
なに
)
も秘密に、な、武男君にも、御両親にも。で、なけりゃ——後悔しますぞ」
小説 不如帰
(新字新仮名)
/
徳冨蘆花
(著)
私が一緒にいたら、そして
逸
(
そ
)
れ弾でもあたったら、と考えると、ヒヤッといたしました。
お蝶夫人
(新字新仮名)
/
三浦環
(著)
実際的とか、有益とかいう観念からして、もはや厳しい真理から
逸
(
そ
)
れたものだからだ。
学生と生活:――恋愛――
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
その癖只口で唱へるだけで、霊は
余所
(
よそ
)
に
逸
(
そ
)
れてゐる。そんな時が一日か二日かあつて、そのうち自然に過ぎ去つてしまふ。その一日か二日がステパンが為めには恐ろしくてならない。
パアテル・セルギウス
(新字旧仮名)
/
レオ・トルストイ
(著)
同じ、かたどって作るなら、とつい
聯想
(
れんそう
)
が
逸
(
そ
)
れて行く。八年前、越中国から帰った当座の、世の中の豊かな騒ぎが、思い出された。あれからすぐ、大仏開眼供養が行われたのであった。
死者の書
(新字新仮名)
/
折口信夫
(著)
しかるに私の期待は
逸
(
そ
)
れて、平塚さんたちは「治安警察法第五条の修正」と「
花柳
(
かりゅう
)
病男子の結婚制限」という二種の請願を貴衆両院へ提出することを以て第一著の運動とされるのでした。
新婦人協会の請願運動
(新字新仮名)
/
与謝野晶子
(著)
こう言って、おしおは相手の気を
逸
(
そ
)
らすように、ほかの事に話しを移した。
四十八人目
(新字新仮名)
/
森田草平
(著)
續けさまにロチスター氏の胸から
逸
(
そ
)
れ、傷もつけず彼の足下に落ちてしまふ矢が、もしもつと確かな手に射られたならば、彼の
自負心
(
じふしん
)
の強い心を鋭く突きさし——彼のきつい眼に愛を
喚
(
よ
)
び出し
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
はらら来て雀
逸
(
そ
)
れゆく
木槿垣
(
むくげがき
)
風か立ちたる花のうごくは (九九頁)
文庫版『雀の卵』覚書
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
それを見て李は工合悪そうに目を
逸
(
そ
)
らした。
光の中に
(新字新仮名)
/
金史良
(著)
と、
逸
(
そ
)
らしたふうに言った。
万年青
(新字新仮名)
/
矢田津世子
(著)
一筋も
逸
(
そ
)
れさせじ。
ファウスト
(新字新仮名)
/
ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ
(著)
話題はそれで
逸
(
そ
)
れた。程なくしてお利代が出てゆくと、智惠子はやをら立つて袴を脱いで、丁寧にそれを疊んでゐたが、何時か其の手が鈍つた。
鳥影
(旧字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
「門の外から室の様子を、見られまいための
防禦物
(
ぼうぎょぶつ
)
だからで、横へ
逸
(
そ
)
れては目的に合わぬ。ところがこれは逸れている。室の様子がまる見えだ」
名人地獄
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
逸
常用漢字
中学
部首:⾡
11画
“逸”を含む語句
独逸
飄逸
都々逸
逸見
逸早
逸物
逸話
安逸
逸足
逸出
逸品
逸散
獨逸
放逸
逸人
逸脱
逸駿
見逸
逸雄
逸作
...