へりくだ)” の例文
さるにても暢気のんき沙汰さたかな。我にへつらい我にぶる夥多あまたの男女を客として、とうとき身をたわむれへりくだり、商業を玩弄もてあそびて、気随きままに一日を遊び暮らす。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かく神はヨブに告げ、ヨブは自己の心に問うた。ここに彼の魂はますます砕くるのみであった。彼はへりくだるよりほかに行き道がなきに至った。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
またこゝに見ゆる天使達は、へりくだりて、かの善即ちかれらをしてかく深く悟るにいたらしめたる者よりかれらの出しを認めたれば 五八—六〇
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
威武遠く富士に迫れども、大霊のあつまるところ、へりくだりて之を凌がず、万山富士にはその徳を敬し、鎗ヶ嶽には其威をおそる。
春琴を九天の高さに持ち上げ百歩も二百歩もへりくだっていた佐助であるからかかる言葉をそのまま受け取る訳には行かないが
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
へりくだる心、素直な心、受容うけいれる心、それはむしろ無学な者、貧しき者によけい恵まれている徳ではないでしょうか。
益子の絵土瓶 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
が、馬越は友達は扨置さておき、母にさへ妻にさへ、へりくだつてゐなければならぬ腑甲斐ふがひなさを悲んでゐた。——この二人も知らず識らず自分を内海に比べてゐるらしかつた。
仮面 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
されば、心を締め気を許さず、へりくだって勉強をすれば、仕事は段々と上がって行く。また、自分が彫刻を覚え、一人前になったからといって、それで好いとはいわれぬ。
次いで橋口夫人も入ったが、これが又今の仇討ちの積りか、妙に敷居際を恋しがって端近にへりくだった。
好人物 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
保は国府こふに来てから、この準平と相識になった。既にして準平が兄弟けいていになろうと勧めた。保はへりくだって父子になる方が適当であろうといった。遂に父子と称して杯を交した。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
子をそだつれども愛に溺れ、ならはせ悪しく愚なる故に、何事も我身をへりくだりて夫に従べし。いにしえの法に女子を産ば三日床の下にふさしむるといへり。是も男は天にたとへ女は地にかたどる。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
さもなくば自己に帰って、客観的にはへりくだってすべてに顕わるる神を見、主観的には自己をかくにして内にも外にも好きな世界を創造すべく努めるか。私は其一を撰ばねばならなくなりました。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それを辛く思えたのはドストエフスキーの博さとへりくだりとである。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
つつましく、へりくだ
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
これらの言葉我をひかへしめたれば、我はこの問を棄て、自らひかへつゝたゞへりくだりてその誰なりしやを問へり 一〇三—一〇五
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
日数ひかずれどももとを忘れず、身をへりくだりてよくつかうるまたなき心を綾子は見て取り、一夜あるよそば近く召したまいて
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もし春琴が今少し如才じょさいなく人にへりくだることを知っていたなら大いにその名があらわれたであろうに富貴ふうきに育って生計の苦難を解せず気随気儘きずいきまま振舞ふるまったために世間から敬遠され
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
おそらくへりくだる心のみが、彼らの仕事を清め深めるでありましょう。特に工藝の領域では、他力の恩沢を想いみるべきであります。絵土瓶は、そう吾々におしえてはいないでしょうか。
益子の絵土瓶 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
夫を主人と思ひ敬ひ慎みてつかうべし。かろしめあなどるべからず。総じて婦人の道は人に従ふに有り。夫に対するに顔色言葉遣ひ慇懃にへりくだり和順なるべし。不忍ふにんにして不順なるべからず。おごりて無礼なるべからず。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
食堂へお供して、末席へへりくだった時
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
かのふみを世にかんためいくばくの血流されしや、へりくだりてこれに親しむ者いかばかり聖意みこゝろかなふやを人思はず 九一—九三
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
へりくだるもの、質素なもの、飾らないもの、それは当然人間の敬愛を受けてよいのである。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
これを(おかみさん)といって自らへりくだり、相手の芸妓げいしゃつかまえて、おいとも、こらともいうのではない、お蝶さん、おまえさんは、という調子たるや、けだし自らいやしゅうしたるものだとわざるを得ぬ。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
我はかのきはたかき者のむれの、やがて色あをざめ且つへりくだり、何者をか待つごとくにもだして仰ぎながむるを見き 二二—二四
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)