蝶番ちょうつがい)” の例文
井戸一ツ地境じざかいに挟まりて、わが仮小屋にてそのなかばを、広岡にてその半ばを使いたりし、ふたは二ツに折るるよう、蝶番ちょうつがいもてこしらえたり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
巨大な鉄製の扉も同じように銅張りになっていた。その扉は非常に重いので、蝶番ちょうつがいのところをまわるときには、異様な鋭いきしり音をたてた。
私はその場合、その場で腰を抜かしてしまったのでは逃げられないから、腰の蝶番ちょうつがいだけをしっかりさせて置いて、逃げた逃げた。
老狸伝 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
逆に蝶番ちょうつがいをはずして、ドア全体を動かすという着想を、いっそう拡大したもので、人の意表を突くパラドキシカルな機智というべきであろう。
探偵小説の「謎」 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
この寝室の天井の板は、二つの蝶番ちょうつがいで、開けたてできるようになっています。家具師が持って来た寝台を、その天井のところから入れました。
そこでかれ小屋こやまえすわりましたが、ると、蝶番ちょうつがいひとつなくなっていて、そのためにがきっちりしまっていません。
(二)、錠前も閂もいじらずに唯ドアの蝶番ちょうつがいを外す。——これは学校生徒達が鍵のかかった戸棚から物を盗み出そうとする時によく使う手である。
その露台に通じているドアがその蝶番ちょうつがいごとそっくりぎとられてしまっているためであることに彼は漸っと気がついた。
恢復期 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
促されて芳年は起ち上りましたが、意気地無くも膝の蝶番ちょうつがいが崩れて、ヘタヘタと綿のように泥濘ぬかるみへ坐ってしまいます。
芳年写生帖 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
いろいろな大理石の見本だの蝶番ちょうつがいだのの見本がつみ重ねてあるわきに、高いファイル棚があり、泰造はテーブルの上に青写真をひろげて調べていた。
二つの庭 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
病人の方でホッとしないもんだ……なんかと考えながらアンマリ静かなので不思議に思って、直ぐ横の自由蝶番ちょうつがいになった扉をグーッと押開くと驚いた。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
猛犬にかかとをかがれながらさびしい道をあるいていく時の気もち……ちょうどあれだった。背骨がしいんとして、腰の蝶番ちょうつがいが今にもはずれそうに思われる。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
肱金ひじがね蝶番ちょうつがいも錠前もまんなかの合わせ目もなかった。鉄の箍は一方から他方へ続けざまにうちつけてあった。
蝶番ちょうつがいがはずれた。錠の閂下したがまだ邪魔をしている。うん、と肩でひと押し。扉は内側へまくれこんだ。
金狼 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
裸なる卓にれる客の前に据ゑたる土やきのさかずきあり。盃は円筒形えんとうがたにて、燗徳利かんどくり四つ五つも併せたるおおいさなるに、弓なりのとり手つけて、金蓋かなふた蝶番ちょうつがいに作りておおひたり。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
メリメリと蝶番ちょうつがいが毀れて戸は下の屋根へ落ち、室の中が一時に明るく成った、とは云え夕明りで有るから昼間ほどには行かぬが幽霊の正体を見届けるには充分で有る。
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
するとハンスは、庭戸の下のほうに乗って、蝶番ちょうつがいがぎいぎい言うほどゆすぶると非常に面白いといって、詳しくやって見せた。しかしそれがすむと、彼は別れを告げた。
蚊にされたあとのある手の甲で額の汗をき拭き、ぐっと腰の蝶番ちょうつがいを伸ばしながら身をらした。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
山門の扉は閉っているが、蝶番ちょうつがいくぎもゆるんでいるし、ただ両方から押しつけてあるばかりなので、人ひとり出入りするくらいの隙間は、ぞうさなくあけることができる。
ひとでなし (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
店先の低い天井には様々なものがぶらさげてある。じょうかぎ蝶番ちょうつがい提柄さげえかぎ座金ざがね、屋号や紋入もんいりの金具等々。どれもこれも埃だらけで何年も手に触れる者がなかったと見える。
思い出す職人 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
屋根やねには、大きなあなが口をあけていますし、戸は蝶番ちょうつがいがこわれて、はずれかかっています。ひと目見ただけで、長いあいだほったらかされていたものであることがわかります。
たてつけのわるい蝶番ちょうつがいのゆるんだドアのボタンが穴にきっちりはまらないで、しめたつもりでもわずかではあるがななめの隙間をつくり、そのまま動かなくなる時があるものだ。
放浪作家の冒険 (新字新仮名) / 西尾正(著)
口ほどもなく一るなりブルブルと、ひざ蝶番ちょうつがいをはずしかけたのはもっともだった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大きな真鍮の門には、ぜいをつくして精巧に細工がしてあり、重々しく蝶番ちょうつがいでひらき、高慢にも、この豪華をきわめた墓へは一般の人間の足などふみこませまいとしているようだった。
この筏になっている扉の蝶番ちょうつがいのあるところは、もとネジで柱にとめてあった。その柱が木ネジといっしょに扉の方へひきむしられて、ひんまがったまま水中につかつているのだった。
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あがって見ると、九尺二間くしゃくにけん棟割長屋むねわりながやゆえ、戸棚もなく、かたえの方へ襤褸夜具ぼろやぐを積み上げ、此方こちらに建ってあります二枚折にまいおり屏風びょうぶは、破れて取れた蝶番ちょうつがいの所を紙捻かんぜよりで結びてありますから
それは玄関の戸の蝶番ちょうつがいの音らしいものでした。——私は寝台の上に起き上がって、自分が本当に目を覚ましているのかどうかを確かめるため、拳固げんこで、寝台のフチをたたいてみました。
黄色な顔 (新字新仮名) / アーサー・コナン・ドイル(著)
腰の蝶番ちょうつがいは満足でも、胸の蝶番が「言ッてしまおうか」「言難いナ」と離れ離れに成ッているから、急には起揚たちあがられぬ……俄に蹶然むっくと起揚ッて梯子段はしごだん下口おりぐちまで参ッたが、不図立止まり
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
しばらくぐずぐず遅滞していた後に、ドアはその蝶番ちょうつがいのところでしぶしぶとほんのわずかばかり囘転し、そしてジェリー・クランチャー君にようやく法廷の中へからだをぎゅっと押し入れさせた。
もちろん鍵を取上げることはできましょうが、そうすりゃいっそう不快な目にあうだけです。なにしろこの部屋じゃ、どんな扉もほんの少し手を下すだけでわけなく蝶番ちょうつがいからはずせますからね
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
私の左の足は、踝の処で、釘の抜けた蝶番ちょうつがい見たいになっていたのだ。
浚渫船 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
丈夫な蝶番ちょうつがいさえ付けてあった。
凍るアラベスク (新字新仮名) / 妹尾アキ夫(著)
皆がお医者と相談して寝椅子を考えて、それを造ってくれようとしていますが、この頃は何しろ蝶番ちょうつがいがちゃんとしたのが無いので、ナカナカ造れません。
すると支えがなくなって、蝶番ちょうつがいになった板が、自然に下って、あとに出入口の穴があくという訳だよ。分ったかね
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
腰の骨の蝶番ちょうつがいがっくりゆるみてただの一足も歩かれず、くしゃりと土下座して、へたへたになり、衣服きものをすっぽりと引被ひきかぶりて、南無阿弥陀仏なむあみだぶつ南無阿弥陀仏。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
腰の蝶番ちょうつがいへしたたか刃を打ちこまれた大太郎、全身の重みで土をたたいたのが、かれの最後だった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
市日では誰も朝鮮の朝鮮に会える。吾々は人込みを縫って目ぼしい品々を漁った。徳席(藁莚わらむしろ)、黄麻布、桝呑茶碗ますのみぢゃわん杞柳きりゅうの弁当箱(トンクリチャツと呼ぶ)、鉄の蝶番ちょうつがいなど。
全羅紀行 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
二階ではまれに一しきり強い風が吹き渡る時、その音が聞えるばかりであったが、下に降りて見ると、その間にも絶えず庭の木立のそよぐ音や、どこかの開き戸の蝶番ちょうつがいゆるんだのが
心中 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「木戸の蝶番ちょうつがいに油をして、てに音の出ないようにした奴だ。——その油は、日本橋の通三丁目で売っている、伊達者だてしゃの使う伽羅油きゃらゆだ。八、ここにいる人間の頭を嗅いで見ろ」
その巨大な蝶番ちょうつがいがぎいっときしるたびごとに、私たちはその音のなかに、かずかずの神秘を——厳かな注意や、あるいはもっと厳かな瞑想めいそうをそそる多くの事がらを——見出みいだしたのであった。
それは内側から固く閉されていた。私たちはホームズに従って、私たちの全身の重みでドアにぶつかっていった。一つの蝶番ちょうつがいがとれ、それからもう一つのがとれ、ドアはガタンと倒れた。
「では」というと、蝶番ちょうつがいの金具がキイと……悲しむように鳴った。この一瞬になると、並いるもの誰彼の境なく、痛快とか悲壮とかいうものを超えて、一種の凄気せいきに歯の根がみしまる。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
魂が見る間にトロトロと溶けた二人は、腰の蝶番ちょうつがいはずれたらしい。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
きざはしに腰をおろして疲れを休めていた滋幹は、妻戸の蝶番ちょうつがいが損じて扉が一枚はずれかゝっているのに気がつき、床に上って中をのぞいて見たけれども、内部は真っ暗で、かび臭い湿気の匂がするばかりである。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
蝶番ちょうつがいがぎいぎい言うほどゆすぶってみた。
思想犯のためには、決して動くことの予期されなかった扉の蝶番ちょうつがいを、きしませはじめているのであった。
播州平野 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
本屋おもや続きの濡縁に添って、小さな杜若かきつばたの咲いた姿が、白く光る雲の下に、あかるく、しっとりと露を切る。……木戸の釘は錆びついて、抜くと、蝶番ちょうつがいが、がったり外れる。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
兇器のピストルも発見されない。——この謎の種あかし。新型の大きな蝶番ちょうつがいのついているドアは、壁と直角にひらくと、蝶番のところに幅一寸ほどの縦に長い隙間ができる。
探偵小説の「謎」 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それでもうこの腰の蝶番ちょうつがいが、どうしてもいうことをききませんようなありさまで、不覚ながら障子につかまって、やっとおのおののところへ注進に来ましたようなしだいでござりまして——
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
と、竹童、手をかけたが、かばこそ、石のような重さ、咲耶子さくやことともに力をそろえて、ウムと四、五すんほど持ちあげるとあとはすなおに、ギイと蝶番ちょうつがいがきしんでけいじゃくほうの口がポンとく。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)