しひた)” の例文
從つて自分がいま生きてゐるといふ喜びを自覺しないで、尊い生を無意義に必ずしひたげられてあることを思つて悲しんだのであつた。
三十三の死 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
されば汝の聞きあたはざりし事、乃ちわが死のいかばかり殘忍なりしやは汝聞きて彼我をしひたげざりしや否やを知るべし 一九—二一
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
世帶の苦勞に、しひたげ拔かれたお關が、伜の憂鬱症を救ふ唯一の道として、母子心中をくはだてたことも、また考へられない節ではありません。
と起つ。)御坊ごばう、なぞこの世の中にはまことなき奴儕やつばらがはびこつて、正しきものがしひたげられるのでござらうな。
佐々木高綱 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
それはしひたげられた暗い幼時の記憶や、特に教育や訓練によつての道徳的なものがほの見える幼時の記憶のそれとは全くこと違つて、美といふものに對するこの種の記憶は
地方主義篇:(散文詩) (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
ゆめか、青葉あをばきぬ、つゝじのおびわか姿すがたくもくらやまよりつきかすかにちかづくを、ものよ、しひたげんとすれば、くびながきよ、くちみゝまでけて、しろへびべにさしたるおもてぞ。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
彼は妻の寝息を聞くのがたまらないで、そつちに背を向けて、丸つこく身をかがめて耳もとまで夜着を被つた。憤怒のにが後味あとあぢが頭の奥でいつまでも/\彼をしひたげようとした。
An Incident (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
旅行をするためには、仕事の余裕ゆとりをつけることが必要であつたけれど、それも当分望めさうもなかつた。彼は体をしひたげてゐることを考へるだけでも、恐ろしいやうな気がしてゐた。
花が咲く (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
奉職中蓄得たくはへえたりし三百余円を元に高利貸を始め、世間のいまだこの種の悪手段に慣れざるに乗じて、あるは欺き、或はおどし、或はすかし、或はしひたげ、わづかに法網をくぐり得てからくも繩附なはつきたらざるの罪を犯し
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
母をしひたぐるこのよしつくづくと父ははばかるをこの子は成しぬ
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
人類の生活を幸福にする為めであらねばならぬ幾多の新式な生産機械が資本家の独占となつて社会生活を不幸ならしめ、多数の人間をしひたげつゝあることを私はその時少しもまだ感じ得る頭はなかつた。
ある職工の手記 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
生きてゐる人々が遺言を守つてくれないので、お墓の中で成佛じやうぶつ出來ないでゐる死んだ人が僞善者を罰し、しひたげられた者に代つて、復讐する爲めに、再びこの世にやつて來ると云ふ話を思ひ出してゐた。
あらん限りの手段てだてもて妻をしひたげる之を称して倦怠期といふ
小熊秀雄全集-01:短歌集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
しひたげの歌をき鳴らす
ピアノ (新字旧仮名) / 三富朽葉(著)
しひたげられし人々に世はその常の如く罪を歸すべし、されど刑罰はこれをわかち與ふるものなるまことの爲のあかしとならむ 五二—五四
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
何處か病身らしい弱々しい感じですが、その上一人つを殺された悲歎にしひたげられて、男の癖に、眼まで泣き脹らしてゐるのは、いかにも痛々しい姿です。
母をしひたぐるこのよしつくづくと父ははばかるをこの子は成しぬ
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
來れ、無情の者よ、來りて汝の名門のしひたげらるゝを見、これをその難より救へ、汝またサンタフィオルのいかに安全やすらかなるやをみん 一〇九—一一一
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
多年の貧苦にしひたげられたか、いかにも痛々しい感じで、美しいだけにそれが強調されるといつた處女姿でした。
そはシケオとクレウザとをしひたげしベロのむすめも、デモフォーンテに欺かれたるロドペーアも、またイオレを心に 九七—
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
お袖は取つて二十一、留守の兄彦太郎は二十八、らふたく美しく育つて貧しさにしひたげられながらも、人などを殺せさうな人柄でないことは平次にもよく判ります。
斯く早くもかの財寶たからに飽けるか、汝はそのため欺いて美しき淑女をとらへ後しひたぐるをさへ恐れざりしを 五五—五七
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
地味な身扮みなり、長い睫毛まつげの下に、小鳥のやうに臆病な眼がまたゝいて、頬にも唇にも、つくろはぬ青春が匂ひますが、それが野獸のやうな丹右衞門にしひたげられて
かゝる爭ひのうちにも憐憫あはれみく姿にてたふとき主に祈り、己をしひたぐる者のために赦しを乞へり 一一二—一一四
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
三千二百石の大祿をみ、役付になれば、隨分人の羨やむ出世もできる筈のを天才的な腕が理智をしひたげて、人を斬つて見たいといふ恐しい病に取りつかれたのでした。
銭形平次捕物控:126 辻斬 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
モンターニアをしひたげし古き新しきヴェルルッキオの猛犬あらいぬもとの處にゐてその齒をきりとす 四六—四八
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
その絶望的な瞳には、形容しやうもない狂暴な復讐心が燃えるやうでもあり、運命にしひたげられて、反抗することのできない檻の中の猛獸の諦めがあるやうでもあります。
日頃彌惣にしひたげられ通しでゐた、通ひ番頭の彦太郎は、何時もの通り同じ町内の自分の家へ歸つて、娘を相手に一杯飮んで寢たつきりで、翌る朝まで眼も覺めなかつたと知れて
かく問へる時しもあれ、見よ第三の聲、汝等をしひたげし者を愛せといふ 三四—三六
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)