薩摩芋さつまいも)” の例文
店の大半、表へまで芋俵が積まれ、親父おやじさんは三つ並べた四斗樽のあきで、ゴロゴロゴロゴロ、泥水の中の薩摩芋さつまいもを棒で掻廻かきまわした。
旧聞日本橋:02 町の構成 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
第百三 薩摩芋さつまいもプデン 前の通りで出来ます。芋なぞは繊維が多くって外の料理では病人に向きませんがこうすると食べられます。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「それはねぎを百本、玉葱を百個、大根を百本、薩摩芋さつまいもを百斤、それから豚と牛とを十匹、七面鳥とにわとりを十羽ずつ買って来い」
豚吉とヒョロ子 (新字新仮名) / 夢野久作三鳥山人(著)
豆腐のかす薩摩芋さつまいもつるとが、山羊夫妻の大好物である。豆腐の粕はまだ三太が床のなかにいる時分豆腐屋から毎朝一個ずつ規則的に届けてくれる。
南方郵信 (新字新仮名) / 中村地平(著)
ところで、生捉いけどって籠に入れると、一時ひとときたないうちに、すぐに薩摩芋さつまいもつッついたり、柿を吸ったりする、目白鳥めじろのように早く人馴れをするのではない。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
伊豆いず新島にいじまでネリコと謂ったのは、甘藷の粉を米麦飯の中に入れて攪拌したものだということであるが、是はこの島に薩摩芋さつまいもが入ってから後の変化と思う。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
食事以外には定まった休憩の時間はないが、一鉢あげるごとに、随意に渋茶も飲めるし、また薩摩芋さつまいもや時には牡丹餅ぼたもちなどの御馳走も、勝手にいただけるのである。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
この時ただ今まではおとなしく沢庵たくあんをかじっていたすん子が、急に盛り立ての味噌汁の中から薩摩芋さつまいものくずれたのをしゃくい出して、勢よく口の内へほうり込んだ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
女は一般に南瓜かぼちゃ薩摩芋さつまいも胡蘿蔔にんじんなどを好む。男は特にこれを嫌ふといふ者も沢山ないにしてもとにかく女ほどに好まぬ者が多い。これは如何なる原因に基くであらうか。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
そして母と顔を見合せて微笑ほほえんだ。母は乳呑児をおぶったまま佇立たたずんでいた。お菊は復た麦だの薩摩芋さつまいもだのの作ってある平坦たいらな耕地の間を帰ったが、二度も三度も振向いて見た。
芽生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
女は茶棚の中から沢庵漬たくあんづけを山盛りにした小皿と、茶漬茶碗と、それからアルミの小鍋を出して、鳥渡ちょっとふたをあけて匂をかぎ、長火鉢の上に載せるのを、何かと見れば薩摩芋さつまいもの煮たのである。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「はま公、そんなににわかに稼ぎださなくともえいよ。天気のえい時にはみっちら働いて、こんな日にゃ骨休めだ。これがえいのだ。なまけて遊んだっておもしれいもんでねい。はまア薩摩芋さつまいもでも煮ろい」
隣の嫁 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
同じ豚でも生肉は非常に不消化だがハムにすると非常に消化がい。薩摩芋さつまいもおおきいのを食べると胸がやけるけれども裏漉うらごしにして梅干でえると胸へ持たん。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
私は子供の頃の一冬、兄にねだって薩摩芋さつまいもを一俵買ってもらって、朝々その薯を一つずつ火に焼いて、半分は目白に、半分は自分で食って暮していたことがある。
それから薩摩芋さつまいもを買い込んだこともありまさあ。一俵四円で、二千俵の契約でね。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しきりに語りかけるかたわらに下女は薩摩芋さつまいもの皮を剥きながら「お嬢様、お芋も何かお料理になりますか」
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
木綿の威力の抵抗しがたかったことは、或る意味においては薩摩芋さつまいもの恩沢とよく似ている。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
えっぽど長いお手紙じゃなもし、と云ったから、ええ大事な手紙だから風に吹かしては見、吹かしては見るんだと、自分でも要領を得ない返事をしてぜんについた。見ると今夜も薩摩芋さつまいもつけだ。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのあとの茶汁へお米を入れて気長に煮ますが出来上る少し前に塩を加えて味を付けます。あるいはこの煮える途中へ薩摩芋さつまいもの細かく切ったのを入れると一層味も良くなります。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
もし空でなければ、昨日きのう食った揚饅頭あげまんじゅう薩摩芋さつまいもがあるばかりである。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
薩摩芋さつまいもかゆ 秋付録 米料理百種「日本料理の部」の「第八 薩摩芋の粥」
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
僕も昨夜ゆうべ章魚たこ柔煮やわらかに薩摩芋さつまいも料理を賞翫しょうがんしたが直段ねだんの安い品物を美味く食べるのは実に経済主義だ。お登和さんを女房に持つ人は非常の幸福さね。時にそのお登和さんの事について少し相談がある。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)