良人つま)” の例文
わが良人つまが、わたくしをめとる時には、お母様へのお手紙を、わざと忘れ落したふりして、わたくしの心をうごかしたのでございますよ。
日本名婦伝:太閤夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふり残されし身一ツに、雨をも、雪をも、御案じ申し上げれども。かくと明かせぬ切なさは、世に隔てなく待遇もてなしたまふ、良人つまへ我から心の関。
移民学園 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
良人つまとは何んじゃ! えい、白痴たわけめが! そちにとっては市之丞がこの父よりも恋しいか! それとも父が大切か? まずそれから申して見よ!」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
亡き良人つまが親友の未亡ごけ人さまといふばかり、平常は與之助の好きて通ふをさへ苦々敷いひけるも、此度びのはからひの如何いかに説きてか我が手にさへ乘らざりしを鎭づめて
花ごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
その時室内から、良人つまを呼ぶ彼女の声が細々と、二人の耳へ洩れて聞えて来る。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「同じ御奉公いたすにも、織田様の御家中へ仕えるなれば、汚名をうけたいくさに果てた亡き良人つまも、どんなに歓ぶことかしれませぬ」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それでは神保市之丞様を思うてはならぬと仰せられますか? 良人つまとも思う市之丞様を?」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
くまでに師は恋しかりしかど、夢さら此人を良人つまと呼びて、共に他郷の地を踏まんとは、かけても思ひ寄らざりしを、行方ゆくかたなしや迷ひ、窓の呉竹くれたけふる雪に心下折したをれて我れも人も
雪の日 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
音信おとづれも、幾月を、絶入りてこそ歎けども、これに濡れたる袖ぞとは、良人つまの御眼に掛けられぬ、御手紙は、生きての記念かたみ、死ぬまでは、何とも知らぬ御秘密のありと思へばなほ更に
移民学園 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
粛々と、城門へ練ってゆく鉄甲の列のなかに、わが良人つまやあるとさがし廻る眼。わが子ありと、人へさけぶ老人。恋人の影を求める若い女。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
戻らうか、戻らうか、あの鬼のやうな我良人つまのもとに戻らうか、彼の鬼の、鬼の良人のもとへ、ゑゝ厭や厭やと身をふるはす途端、よろ/\として思はず格子にがたりと音さすれば
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
独り居てこそもの思へ、思へる事のありぞとは、良人つまに知られじ、知らさじと、思ひかねては、墜ちも来る、涙を受けて、掌は白粉も溶く薄化粧。紅も良人おつとへ勤めぞと、物憂さ隠す身嗜み。
移民学園 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
そして道誉のみちびくまま夢心地に六波羅へ来たのであるが、急ではあったし、去年いらい、わが良人つまみかどを見るのは百九十日ぶりのこと……。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もどらうか、もどらうか、あのおにのやうな我良人わがつまのもとにもどらうか、おにの、おに良人つまのもとへ、ゑゝやとをふるはす途端とたん、よろ/\としておもはず格子かうしにがたりとおとさすれば
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
塀にもたれて、考えこんでいると、奥ふかい邸の木の間からみやびた八雲箏やくもごとの音が、良人つまこいしとくように洩れてきた。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
戻らうか、戻らうか、あの鬼のやうな我良人わがつまのもとに戻らうか、あの鬼の、鬼の良人つまのもとへ、ゑゑやと身をふるはす途端、よろよろとして思はず格子にがたりと音さすれば
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
一瞬は、歓呼とどよめきの坩堝るつぼであった。彼らにとって、信長こそ、わが子以上のものであり、わが良人つま以上のものであり、恋人以上の恋人であった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夫れでも原田の妻と言はれたいか、太郎の母で候と顏おし拭つて居る心か、我身ながら我身の辛棒がわかりませぬ、もう/\もう私は良人つまも子も御座んせぬ嫁入せぬ昔しと思へば夫れまで
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「……おお、趙雲でしたか。……うれしい。どうか、和子のお身をわが良人つまのもとへ、つつがなく届けて下さい」
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それでも原田の妻と言はれたいか、太郎の母でさふらふと顔おしぬぐつてゐる心か、我身ながら我身の辛棒がわかりませぬ、もうもうもう私は良人つまも子も御座んせぬ嫁入せぬ昔しと思へばそれまで
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
いや彼女は亡き良人つま、菊池三郎頼隆よりたかになりすましているのらしい。きっと、浄明の方を見て、扇拍子をとりながら、うたうがごとく、こう語り初めていた。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
れでも原田はらだつまはれたいか、太郎たらうはゝさふらふかほおしぬぐつてこゝろか、我身わがみながら我身わがみ辛棒しんぼうがわかりませぬ、もう/\もうわたし良人つま御座ござんせぬ嫁入よめいりせぬむかしとおもへばれまで
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
今宵、亡き良人つまもこの座にいませば……と、彼女は彼女の胸のかなでに、悲母の思いをせぐり上げられていた。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
高僧頭巾こそづきん肩掛かたかけひきまとひ、良人つまきみもろとも川崎かはさき大師だいし參詣さんけいみちすがら停車塲ていしやば群集くんじゆに、あれは新橋しんばしか、何處どこのでらうとさゝやかれて、奧樣おくさまともはれぬるながられをあさからずうれしうて
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
わが良人つま、わが親ども、わが弟、わが叔父、わがおいどもは、生きているやら、戦死したことやら、その後の様子を知らせてよと、使者のまわりへ群れ集まった。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そなたの良人つまを、天下一、大きゅうなさるも、小さくなさるも、蔭にいてたもるそなたのお心ひとつと、真実、この老母までたのみにしているためと思うてくだされよ
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「皆の者、まアおちついて、坐ってもい。ようわが良人つまのお胸の底を、確かめてみたがよい。……いずれも、日ごろは一トかどの男どもが、なんとしたことです」
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「亡き良人つまが、事の前から、ひそと親しゅうしておられました佐々木道誉どのでございまする」
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『それ聞いて、この身も、生きがいを覚える。亡きわが良人つまにもさぞお欣びでありましょう』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「せがれよ、どうしようぞ。わたしも亡き良人つまから、むかし聞いていた覚えはあるが」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……たとえふたたび良人つまのもとへ還っても、もうわらわの生命はおぼつかない。もし妾のために、将軍の馬を取ったら、将軍は和子を抱いて、敵の中を、徒歩で行かねばならないでしょう。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しき御縁と申すしかございませぬ。先年、わが良人つまが鎌倉表へ曳かれて長い幽居のうちに、ごねんごろなおいたわりを給うたうえ、良人の形見までを、おあずかりおき下さいましたそうな」
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「わが良人つまのお嫌いも、心の副わぬ、物だけの、物脅ものおどしでございました」
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
日頃、わが良人つまには、三成とは、お心も合わず、また、その良人やわが子は今、三成の敵とする徳川殿にいて、上杉攻めの軍旅におわすものを、何でこの身が、大坂城へ質として足を運ぼうぞ。
「これを子に届けて給われ、これをわが良人つまへ」と、使者に托した。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「わが良人つまは。将門様は」
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「わが良人つまは?」
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)