いわや)” の例文
そこは峨々ががたる岩山で、所々に巨大ないわやがあった。その中の一つの千疋洞に百地ももち三太夫と才蔵とが久しい前から住んでいるのであった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
本所にはいわやの弁天、藁づと弁天、なた作り弁天など、弁天のやしろはなかなか多いのであるが、かれがまつっているのは光明弁天というのであった。
半七捕物帳:21 蝶合戦 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
なぜならば、檜林ひのきばやしいわやには、やぶ蚊のように、僧兵がかくれていたのだ。わざわざ敵の中を駈けて通ったようなものだった。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこから三里ばかり降りますと龍樹菩薩の坐禅せられたいわやがあり、この窟で大乗仏教の妙理を観察せられたのであります。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
特に縦坑の上部に掘らせてあったいわやのようなくぼみの中に体をかがめて這入ったきり、とき/″\夫人や母などが与えてくれる握り飯に露命をつないで
田村麻呂たむらまろはこのいきおいにって、達谷たっこくいわやというおおきな岩屋いわやの中にかくれている、高丸たかまる仲間なかま悪路王あくろおうというあらえびすをもついでにころしてしまいました。
田村将軍 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
僕は獅子のいわやに這入るようなつもりで引き越して行った。埴生が、君の目は基線を上にした三角だと云ったが、その倒三角形の目がいよいよかど立っていたであろう。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
下駄突かけて、裏の方に廻って見ると、小山のすそを鬼のいわやの如くりぬいた物置がある。家は茅葺かやぶきながら岩畳がんじょうな構えで、一切の模様が岩倉いわくらと云う其姓にふさわしい。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
何の事は無い木村父子は狼のいわやそばに遊ばせて置かれる羊の役目を云い付かったのかも知れない。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
人は想像をめぐらしてその隠れの里を執著のいわやに求めても好い。その執著の窟戸いわやどを折々開けて、新機運に促されつつ進展して行く人の世の風光を心ゆくばかり打眺めてたたずんでいる姿がある。
水無瀬はその弟妹の中の上の弟をかたらって、三月の行糧を、山のいわやに蓄えた。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
花のいわやの花祭はあまり物遠いとしても、日前国懸両宮往古年中行事ひのくまくにかかすりょうぐうおうこねんじゅうぎょうじにも「四月八日供躑躅つつじをそなう」という例はあるので、自分等はむしろ何故に釈迦誕生に花御堂はなみどうを作り始めたかを考えて見たい位である。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
では、どこか島の地下室であろうか、それともいわやの底であろうか。
太平洋魔城 (新字新仮名) / 海野十三(著)
で、紋太夫は元気よく、しかし充分用心していわやなかへはいって行った。道が一筋通じている。その道をズンズン歩いて行く。
怪しい者は小さくなって、いわやの奥へ逃げ込んでしまった。お葉は茫然ぼんやりと立っていた。重太郎も黙ってその顔やかたち見惚みとれていた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その川端かわばたいわやれた枯木かれきをようやく燃しつつ溪流の清水しみずで茶をこしらえて飲み、それからまただんだん降ってダカルポ(白岩村はくがんそん)という所に出ました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
太刀をはずして先ず体だけを、いわやの胎内くゞりのようにしてずり込ませ、這入りきってしまった所ですぐに幾分か餘裕が出来たので、そこから手を伸ばして太刀を引き寄せ
岩盤をくりぬいたいわやがある。それを廟として一人の将軍の石像がまつられてあった。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
岩畳な彼をるゝその家は、基礎どだい切石きりいしにし、はしらの数を多くし、屋根をトタンでつつみ、えんけやきで張り、木造のおにいわやの如く岩畳である。彼に属する一切のものは、其堅牢けんろうな意志の発現はつげんである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
剣は皇子を乗せたままチブロン島まで翔けて来たが、そこで一旦地上へ下り、さらに虚空を斜めに飛びいわやの中へ飛び込んだ。
「いや、普通の魚の鱗とは違う。北条時政が江の島のいわやで弁財天から授かったという、かの三つ鱗のたぐいらしい。」
異妖編 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それからだんだん上へ昇って行きますとその白いいわやの前にまた一つ窟がある。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
一軒一軒根気よくかつては窩人の住家であり、今は狐狸の巣となっている、いわや作りの小屋小屋を丁寧に彼は探したが、人間の姿は見られなかった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それから二十余年の間、彼女かれいわやを宿として、余念もなく赤児を育てていた。赤児も今は立派な大人になって、その名を重太郎じゅうたろうと呼ぶそうである。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「はい申します申します。——久しい以前まえから瑠璃ヶ岳の千疋洞のいわやの中に、年を取った人間と狼を連れた若者とが、住居すまいするようになりました」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
多寡たかが一里だ。」と、彼は難所に逢う毎に自ら励ました。が、あるいみちを踏み違えたのかも知れぬ。すでに二時間あまりを費したかと思うのに、目指すいわやいまだ探り得なかった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「それからもう一つは林の奥のいわやの中にございます。しかしここからは、容易のことでは地下の世界へは行けません。迷路が作られてありますので」
坂路はよほど急になって、仰げば高いいわやの上に一本の大きな杉の木が見えました。これがなかたけの一本杉と云うので、われわれは既に第二の金洞山きんとうざんに踏み入っていたのです。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「もしお前の手に合わなくなったら、その時わしを呼ぶがいい。それまではどれいわやの奥で日課いつもの昼寝をするとしようか」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「大塔宮様ご幽居あそばさるるいわやまでご案内くださりませ」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いわやに幽居あらせられた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)