神楽かぐら)” の例文
浜町の豊田の女将おかみが、巫女舞みこまいを習った時分に稽古をしたので、その頃は、新橋でも芳町でも、お神楽かぐらが大流行だったと云う事である。
ひょっとこ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
年々の春秋の神楽かぐらとともに必ず長久隆運の祈りをすることなどは、今日の女御の境遇になっていなければ実行のできぬことであった。
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
また「絵馬」の「女体」では、神舞を急の位でシテの女神が舞ひ、神楽かぐらをツレの天女が舞ひ、きふまひをツレの力神が舞ふことになつたり
演出 (新字旧仮名) / 野上豊一郎(著)
「やはり、おれ達の、阿佐ヶ谷神楽かぐらの仲間で、しかも笛がうまかった。なんといッたッけなあ? ……おお、そうそう伊兵衛、伊兵衛」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「けさ友達に見せているところを、運わるく城弾三郎殺しの下手人げしゅにん捜しに来ている、お神楽かぐらの清吉に見られてしまったんです」
美濃みの揖斐いび郡の山村では、十一月の三日が、氏神の出雲から還りたまう日であって、お神楽かぐられと称して天気がよく荒れる。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
大嘗会だいじょうえが行なわれるはずであったが、新都には大極殿も、即位の大礼を行なうべきところはなく、清暑堂もないので神楽かぐらを奏する場所もない。
そして大直日おおなおびの祭りとその祝詞とが神楽かぐら化し、祭文化し、祭文化する以前には、みぬまという名も出てきたかも知れない。
水の女 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
ばあちゃんは歯がお神楽かぐら獅子ししを見るようにずらりと金歯であった。私はいまでも金歯の目立つ人を見ると、このばあちゃんのことを思い出す。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
この言葉のうち、神楽かぐらの面々、おどりの手をめ、従って囃子はやし静まる。一連皆素朴そぼくなる山家人やまがびと装束しょうぞくをつけず、めんのみなり。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こんなことは幼い時分に人形町の水天官すいてんぐうで七十五座のお神楽かぐらを見た以来であると思ったが、この小屋掛けの中の気分はちょうどあれと同じである。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
安ぶしんの二階通りお神楽かぐらで、上にちょいとのっかっているだけで、すこしひどく吹きつけると忽ち木端微塵である。
「……どうせ、こんなお神楽かぐらのような顔でございますから、珍らしくてお眺めになるのでしょうけど、そんなにお見つめになっては嫌でございますわ」
顎十郎捕物帳:16 菊香水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
古い形式がうたわれるとともに絶えず新しい形式もまた生み出される。もちろん神楽かぐら東遊あずまあそびのような御神事の歌の中には短歌が厳然と形を保っている。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
旭川市の郊外にある神楽かぐら村は、もと“ヘッチェウシ”と言った所で、“ヘッチェウシ”は“皆で集っていつもヘッチェをする所”という意味であります。
神楽かぐらの太鼓「大拍子だいびょうし」のバチの鯨を、瀬戸物のかけらでたんねんに削って穂先にし、もと竹に頭から納める。これは万年筆から思いついたものである。
江戸前の釣り (新字新仮名) / 三遊亭金馬(著)
神楽かぐら芝居の仕出し位ひなもので、却つて先生方の男前をあげる小道具になるばつかり——といふところだぜ。
武者窓日記 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
それに附随して神楽かぐらもあれば煙花はなびもある、道祖神のお祭も馳せ加わるという景気でありましたから、女子供までがその日の来ることを待ち兼ねておりました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
今日は此方のお神楽かぐらで、平生ふだんは真白な鳥のふんだらけの鎮守の宮も真黒まっくろになる程人が寄って、安小間物屋、駄菓子屋、鮨屋すしや、おでん屋、水菓子屋などの店が立つ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
行者達の魂ごいの呼ばい声・鈴の音は遠く消え去り、取り残されたように神楽かぐらの笛の音がかすかにしている。左手より清原きよはら秀臣ひでおみ小野おのむらじ、話し合いながら登場。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
神楽かぐらのお多福面をもっと男性化して、口を横に広くひらいて、ニヤニヤと笑わせた、単純な打ち出し面であったが、その笑い顔が、さもさもおかしそうな表情で
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
三階は、細君がお神楽かぐら三階は縁起が悪いと反対したのを押切つて、あとから建て増されたものだ。
日本三文オペラ (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
この機運が神楽かぐら催馬楽さいばらなどにも著しく外国楽を注ぎ入れたところから見ると、当時の日本化は
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
不意に狂わしげな旋律をもった神楽かぐら歌が唱い出され、それがもの恐ろしくも鳴り渡っていった。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
こんな風に観察して参りますと、この三つのお面が活躍する「お神楽かぐら」というものは、鼻の表現によって象徴された無自覚な性格の分解踊りとも見られるようであります。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
飛騨一円に伝わり、同国各町村は競いて天狗祭りを執行し、神楽かぐらを担ぎ出して踊り回りおる由。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
神楽かぐらだけのことはありしも気味きびよし、それよりは江戸で一二といわるる大寺の脆く倒れたも仔細こそあれ、実は檀徒だんとから多分の寄附金集めながら役僧の私曲わたくし、受負師の手品
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
とたんにパッと白衣に朱の袴のミコが三名、神楽かぐらのリズムに合わせるような足どりで、踊りこんだ。先頭の一人は御幣をかついでいる。あとの二人は鈴を頭上に打ちふっている。
現代忍術伝 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
その時分もヤンチャン小僧で、竹馬の友たる山田美妙びみょうの追懐談に由ると、お神楽かぐら馬鹿踊ばかおどりが頗る得意であって、児供同士が集まると直ぐトッピキピを初めてヤンヤといわせたそうだ。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
お武家では三条とか甘露寺などという伝法があるそうでげすな、里神楽かぐらや下座鳴物の笛とは格別でげしょうが、実は私こんどの作の道具廻しに笛を使う積りでして、ちょっとまあ文献を
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
左から見ると右に光る。雑多な光を雑多な面から反射して得意である。神楽かぐらめんには二十通りほどある。神楽の面を発明したものは謎の女である。——謎の女は宗近家へ乗り込んでくる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
神楽かぐら素盞鳴命すさのおのみことが着そうなインバネスというものを着て威張って歩く野郎も、阿呆鳥の羽を首輪にして得意がっている頓痴奇とんちきも、乃公が此れから火事の真似をしようとは夢にも知るまい。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
田園のはずれは花畑らしく緑色のかまちのフレームも見えます。刈り残された紅や黄の花の向うに松林が取巻いていて、神楽かぐらはやしが響き出しました。右の方で聞えるかと思えば左の方で聞えます。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そうした追憶の一番濃いのは住吉神社の夏祭りの夜の神楽かぐらの折のことだ。
光り合ういのち (新字新仮名) / 倉田百三(著)
二階などが斯うお神楽かぐらでもなさるように妙に欄干が付いて居りますねえ
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
四月十六日のお祭奠まつりに、杉の木へ寄りかかって神楽かぐらを見た覚えもあざやかに残っているし、小僧が木の幹にしがみついて、登って見ていたのも覚えているから、幾本かは、幾度かの江戸の大火にも
われは見つ肥前ひぜん平戸ひらとの年ふりし神楽かぐらまひを海わたり来て
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
大きな神楽かぐら堂には笛と太鼓の音が乱れてきこえた。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
仰々そもそも神楽かぐらの始まりは……」
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
神楽かぐらや世話人何か立ち廻り
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
その涙のうずきが、唐突に、伊織の手や足を動かし始めた。伊織の耳には、ゆうべの岩戸神楽かぐらが、雲の彼方むこうで聞えているのである。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「たいそう機嫌の悪い虫だね。じゃ、三輪の兄哥あにきがびっくりするような手柄を立ててよ、お神楽かぐらの清吉が目を廻すような女房を貰うんだね」
銭形平次捕物控:124 唖娘 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
時雨といへば矢張やはり其時、奈良の春日かすがやしろで時雨にあひ、その時雨のれるのをまつあひだ神楽かぐらをあげたことがあつた。
一番気乗のする時 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
神楽かぐら獅子舞ししまいなどにも、東北ではヲカシといい、関西では狂言太夫きょうげんだゆうというものが附いていて、あのおそろしい面をかぶったものに向かって茶かそうとする。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
夜通し飲んだ酒のために神楽かぐらの面のようになった自身の顔も知らずに、もう篝火かがりびも消えかかっている社前で、まだ万歳万歳とさかきを振って祝い合っている。
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
口の悪い私の祖母がはじめさんのことをお神楽かぐらに出てくる「宝剣泥坊」のようだと云ったことがある。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
丹後守の家では二三の人が残ったきりで、あとは皆、昼からの引続いての神楽かぐらと、今年はほたるを集めて来て階段の下から放つという催しを見に行ってしまっています。
夏の夜の由井ヶ浜は、お祭りみたいに明るくにぎやかであった。浜の舞台ではお神楽かぐらめいた余興が始まっていた。黒山の人だかりだ。舞台を囲んで葦簾よしず張りの市街しがいが出来ている。
何者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ちやるめらを吹く、さゝらをる、ベルを鳴らしたり、小太鼓を打つたり、宛然まるで神楽かぐらのやうなんですがね、うちおおきいから、遠くに聞えて、夜中の、あの魔もののお囃子はやし見たやうよ
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
道清みちきよめの儀といって、御食みけ幣帛みてぐらを奉り、禰宜ねぎ腰鼓ようこ羯鼓かっこ笏拍手さくほうしをうち、浄衣を着たかんなぎ二人が榊葉さかきはを持って神楽かぐらを奏し、太刀を胡籙やなぐいを負った神人かんどが四方にむかって弓のつるを鳴らす。
顎十郎捕物帳:23 猫眼の男 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)