癇癪かんしやく)” の例文
さういふ場合、リヴィングストーンは実に悠長にかまへて、少しも癇癪かんしやくなんか起さず、無理をせずに有利な結末をつけるのでした。
アフリカのスタンレー (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
少くとも学者らしい顔をする者には忽ち癇癪かんしやくを起したと見え、常に諷刺的天才を示した独特の皮肉を浴びせかけてゐる。
芭蕉雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
彼女は彼女でその傍に少し膝を崩して坐り、当のない憂欝に引き込まれながら、先刻道助が癇癪かんしやくを起して物置きの中へはふり込んだ小鳥の鳴き声を追つてゐた。
静物 (新字旧仮名) / 十一谷義三郎(著)
「爐の中に地雷火なんか潜り込むわけはないぢやないか、癇癪かんしやく玉か何んかだらう、——尤も兩端へ節の付いた竹筒を埋めて置いても、それくらゐのわざはやるぜ」
構はない、苦学するんだ、なぞと申します。しまひには弟は癇癪かんしやくを起して、往来で泣き出しますし、私も心配やら可哀想かはいさうやらで、それに釣り込まれてしまひまして……
姉弟と新聞配達 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
運動不足で癇癪かんしやくを起して居る犬どもは、繋がれながら、夕方になると、与へた飯を一口だけで見むきもせずに、ものにおびえて、淋しい長い声で何かを訴へて吠え立てた。
寝てゐる雇人等が皆眼を覚ますほどの声を立てて、お文は癇癪かんしやくの筋をピク/\と額に動かした。
鱧の皮 (新字旧仮名) / 上司小剣(著)
美しさよりは性格を表はしてゐる點で眼立つきつぱりした鼻、癇癪かんしやくもちらしい開いた鼻孔びこう、怖ろしい口元、おとがひあご——さうだ、みんな隨分こはさうで、そして間違ひはなかつた。
然しさうかうする中に癇癪かんしやくの潮はその頂上を通り越して、やゝ引潮になつて来た。どんな猛烈な事を頭に浮べて見ても、それには前ほどな充実した真実味が漂つてゐなくなつた。
An Incident (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
それよりして以來いらい——癇癪かんしやくでなく、いきどほりでなく、先生せんせいがいゝ機嫌きげんで、しかも警句けいくくもごとく、弟子でしをならべて罵倒ばたうして、いきほひあたるべからざるときふと、つゝきつて、くばせして
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
見る見る癇癪かんしやくを起しさうになつた練吉は、その時ふと或ることを思ひ出して黙つた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
悠然いうぜん車上しやじようかまんで四方しはう睥睨へいげいしつゝけさせる時は往来わうらいやつ邪魔じやまでならない右へけ左へけ、ひよろひよろもので往来わうらい叱咜しつたされつゝ歩く時は車上しやじようの奴やつ癇癪かんしやくでならない。
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
やはりおせきに附纏つきまとつてゐるやうに、かれの影を踏みながらおどり狂つてゐるので、要次郎も癇癪かんしやくをおこして、足もとの小石を拾つて二三度たたきつけると、二匹の犬は悲鳴をあげて逃げ去つた。
小六ころくこの氣樂きらくやうな、愚圖ぐづやうな、自分じぶんとはあまりにへだつてゐるあにを、何時いつ物足ものたりなくはおもふものゝ、いざといふ場合ばあひに、けつして喧嘩けんくわはしなかつた。此時このとききふ癇癪かんしやくつのられた氣味きみ
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
癇癪かんしやくが起つてきた。
イボタの虫 (新字旧仮名) / 中戸川吉二(著)
癇癪かんしやく持だけに、生一本で正直者で、思ひつめると待て暫しがありません。
彼の調子はます/\とがつて来た。彼はもう驀地まつしぐらに自分の癇癪かんしやくに引き入れられて、胸の中で憤怒の情がぐん/\生長して行くのが気持がよかつた。彼は少しふるへを帯びた声を張り上げて怒鳴り出した。
An Incident (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
「それから——ええと——癇癪かんしやくを起しちやいけませんつて。」
戯作三昧 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
平次の言葉は、石澤左仲の癇癪かんしやくを封ずるに充分でした。