独楽こま)” の例文
旧字:獨樂
あっと云うもなく風を切って、独楽こまのようにくるくるまわりながら、見る見る中に暗の底へ、まっさかさまに落ちてしまいました。
蜘蛛の糸 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
私は独楽こまの研究が専門ですが、今日の飛行機にジャイロスコープをしかけますと、空中でちゃんとスタビリチー(安定)が取れます。
空中征服 (新字新仮名) / 賀川豊彦(著)
太閤様を笑わせ、千利休を泣かせるのは曾呂利そろり新左衛門に任す。白刃上に独楽こまを舞わせ、扇のかなめに噴水を立てるのは天一天勝てんいちてんかつに委す。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
とうとうとムダ口をしゃべって大人おとな見物けんぶつをけむにまいた蛾次郎がじろうは、そこでヤッと気合いをだして、右手の独楽こま虚空こくうへ高くなげた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
クリヴォフ夫人の赤毛が陽にあおられて、それがクルクル廻転するところは、さながらほのお独楽こまのようにも思えたであろうし、また
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
彼等は紙鳶たこをあげ、独楽こまを廻し、泥で菓子をつくり、小さな襤褸ぼろの人形をつくる。襤褸人形には、実に妙な格好をしたのがある。
みちの角に車夫が五六人、木蔭こかげを選んで客待きやくまちをしてた。其傍そのかたはらに小さな宮があつて、その広場で、子供があつまつて独楽こまを廻してた。
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
決断しなければならぬという恐ろしい瞬間が近づき、エリザベスの心は独楽こまのようにまわった。彼女は激情と激怒でいっぱいになってきた。
大きな山をいくつもいくつも寄せ集め、独楽こまのようにぶっつけあわしたとでもいうような大波が、白いしぶきをあげて走っているのだった。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
独楽こまのようにぶん廻った。しかも少しも音を立てない。十回あまりも繰り返した。しかし憎むべき嘲弄者ちょうろうしゃを、発見することは出来なかった。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そうだ、ちょうど「白金はっきん独楽こま」や「雲母きらら集」の詩や歌の出来た頃だ。ある晩坐っていると、筆がおもしろいくらい動くのだ。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
他の三人の少年たちは平蜘蛛ひらぐものようにへたばった。と、次の瞬間には、部屋全体がきりきりきりと独楽こまのように廻り出した。
火星探険 (新字新仮名) / 海野十三(著)
翁はじっとしていられなくなって廻された独楽こまのように身体のしん棒で立上った。娘をはたっとにらみ、焦げつく声でいった。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
こう考えたとき、僕は、独楽こまのように、ぐるぐる廻る幽霊船の甲板で、大空へ脱れ出る方法について、工夫をこらすだけの、心の余裕を生じた。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
謡曲の筋書をした絵本やら、そんなものを有るに任せて見ていて、たこと云うものを揚げない、独楽こまと云うものを廻さない。
サフラン (新字新仮名) / 森鴎外(著)
凧を持ったのは凧を上げ、独楽こまを持ちたるは独楽を廻す。手にものなき一人いちにん、一方に向い、凧の糸を手繰る真似して笑う。
紅玉 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大きな美しい独楽こまなどが、同じように飛び出したキャラメルや、ボンボン、チョコレートの動物などに入れ混って散乱し
寒の夜晴れ (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
……この頃、順一は身も心も独楽こまのようによく廻転した。高子を疎開させたものの、町会では防空要員の疎開を拒み、移動証明を出さなかった。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
暗闇くらやみを検査するために蝋燭をともしたり、独楽こまの運動を吟味するため独楽こまおさへる様なもので、生涯られつこない訳になる。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
こんなあそびは、たとえば独楽こまにせよ、ピストルにせよ、はやったかとおもうと、すたれ、すたれたかとおもうと、はやりすというふうでありました。
日月ボール (新字新仮名) / 小川未明(著)
はあはあ言いながら——松井源水げんすい独楽こま廻しでも見るような心持で——聴くことは、どうも、相すまぬことながら私の性に合わなかったのである。
憤激の頂点で、独楽こまのように廻っている秋蘭を見ていると、参木は自分の面上を撫で上げられる逆風を感じて横を見た。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
吾等が棲む地球はその姉妹なる諸遊星と独楽こまのように廻りながら太陽の周囲を不断週遊しているのであると講釈する。なるほどこれで大体は正しい。
宇宙の二大星流 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その頃、男の子の春の遊びというと、玩具おもちゃではまとい鳶口とびぐち、外の遊びでは竹馬に独楽こまなどであったが、第一は凧である。
凧の話 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
あちこちに蛇が見えたが、その中の一匹は岩棚から鎌首をあげて、独楽こまの𢌞るような音を立てながら私を睨んでいた。
倒した木は分捕るという事が流行はやった、独楽こまもよくやったもので、前の独楽を、後の独楽で廻いを止める事をした。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
鋭い横胴、危うし! と見る刹那、又平の体は独楽こまのように舞って左へ転ずる。力余ってだだだっとのめる兵右衛門、見縊みくびっていただけに怒りを発して
半化け又平 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ここで紙鳶たこをあげた、独楽こまを廻した。戦争ごっこをした、縄飛びをした。われわれの跳ねまわる舞台は、いつもかの黒塀と樫の木とが背景になっていた。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
子供のむれがめんこや独楽こまの遊びをしているほかには至って人通りの少い道端みちばた格子戸先こうしどさきで、張板はりいた張物はりものをしていた。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「スピンアトップ・スピンアトップ・スピンスピンスピン——回れよ独楽こまよ、回れよ回れ」と彼の母は続けた。
地球儀 (新字新仮名) / 牧野信一(著)
二人が八幡さまの石鳥居の前を通りかゝると、そこで、独楽こまを持つて、ひとりでしよぼんとしてゐたけん坊が
(新字旧仮名) / 新美南吉(著)
なかんずく欲しがったのは厚いかね胴の独楽こま、もちろんあぶない代物だから、ねだっても買ってはくれず、薄い奴では幅が利かず、子供心にやきもきした。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
地球は太陽の前で、ちやうど独楽こまのやうに廻つて、次ぎ/\にその違つた処を太陽の光線にさらしてゐるのだ。
自動車のスリップは、非常に怖いもので、相当速度の出ている時に、急にブレーキを踏むと、車体がぐるぐると独楽こまのように廻って、どこへ行くか分らない。
ウィネッカの冬 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
大理石の卓子テーブルの上に肱をついて、献立こんだてを書いた茶色の紙を挾んである金具を独楽こまのように廻していた忠一が
明るい海浜 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
実際あり来たりの独楽こまたこ、太鼓、そんな物に飽きたお屋敷の子は珍物めずらしもの好きの心からはげしい異国趣味に陥って何でも上等舶来と言われなければ喜ばなかった。
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
路傍に茣蓙ござを敷いてブリキの独楽こまを売っている老人が、さすがに怒りを浮かべながら、その下駄を茣蓙の端のも一つの上へ重ねるところを彼は見たのである。
冬の日 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
けれど其丸い者と云うのは何だえ(大)色々と考えましたが外の品では有ません童子こどもまわ独楽こまであります
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
もとより「こけし」のみならず挽物ひきもの独楽こまだとか針入はりいれだとか様々な玩具も作ります。仙台市の木下薬師で売る木下駒きのしたごまは忘れ難い郷土玩具の一つといえましょう。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
糸を紡ぐといったところで紡車つむぎぐるまがある訳じゃない。細い竹の棒の先に円い独楽こまのようなものが付いてある。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
そしてこの地球自身の回転について、たとへば独楽こまのやうに、まん中に一本の軸があると仮定してみますと、その軸の一端が北となり、他の一端が南となります。
北極のアムンセン (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
従弟いとこと私の妹おまっちゃんと三人で、赤大根を見た時、お皿の上で、葉をつまんで独楽こまのように廻した。
ポパイはクルクルと独楽こまのように廻りながら、悲しいなき声を残して、水中に姿を消してしまいました。
新宝島 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
子供が池に帆のある船を浮かべたり、独楽こまや輪を廻して遊んだりするのはナシヨナル読本とくほんの中の景色だ。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
磯五は、ほう、ほうというような、かもめの鳴くような声を絞って、二人の女を振り切ろうとしてあばれていた。それは、火の中で独楽こまがまわっているように見えた。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
今は風があんまり強いので電信柱でんしんばしらどもは、本線ほんせんの方も、軽便鉄道けいべんてつどうの方もまるで気が気でなく、ぐうん ぐうん ひゅうひゅう と独楽こまのようにうなっておりました。
シグナルとシグナレス (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
かれ等の為めに玩具を作つて遣り、紙鳶を飛ばして遣り、独楽こまを廻して遣り、また幽霊や、魔女や、銅色人種の面白い語をして遣るのは、此人の外にはないからです。
新浦島 (新字旧仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
踊屋台おどりやたいがくる、地走り踊がくる、獅子頭ししがしら大神楽だいかぐら、底抜け屋台、独楽こま廻し、鼻高面はなたかめんのお天狗さま。
耳までさやを払った刀身の如く、鋭利になって、触るれば手応えあらんずるとき、幻は微小なる黒体となって、まりの如く独楽こまの如くに来た、この黒体がただ一つ動くために
奥常念岳の絶巓に立つ記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
独楽こま流行はやっている時分だった。弟の藤二がどこからか健吉が使い古した古独楽を探し出して来て、左右のてのひらの間に三寸釘の頭をひしゃいで通した心棒を挾んでまわした。
二銭銅貨 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)