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濱野
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はまの
まむかうの
黒べいも
櫻がかぶさつて
眞白だ。さつと
風で
消したけれども、しめた
後は
又こもつて
咽せつぽい。
濱野さんも
咳して
居た。
もの
凄いと
言つては、
濱野さんが、
家内と
一所に
何か
罐詰のものでもあるまいかと、
四谷通へ
夜に
入つて
出向いた
時だつた。
濱野さんは、
其の
元園町の
下宿の
樣子を
見に
行つて
居た。——
氣の
毒にも、
其の
宿では
澤山の
書籍と
衣類とを
焚いた。
濱野さんが
歸つてから、その
一枚を
水に
浸して、そして
佛壇に
燈を
點じた。
謹んで
夜を
守つたのである
白井さんの
家族が
四人、——
主人はまだ
燒けない
家を
守つてこゝにはみえない——
私たちと、……
濱野さんは
八千代さんが
折紙をつけた、いゝ
男ださうだが、
仕方がない。
「
疊をあげませう。
濱野さん……
御近所の
方、おとなりさん。」「
騷ぐなよ。」とはいつたけれども、
私も
胸がドキ/\して、
壁に
頬を
押しつけたり、
疊を
撫でたり、だらしはないが
その
夜九時頃濱野さんが
來て、
茶の
聞で
話しながら、ふと「いつかのこたつ
騷ぎは、
丁度節分の
今夜でしたね。」といふのを
半聞くうちに、
私はドキリとした。
總毛立つてぞつとした。
「
御安心なさいまし、
大丈夫でせう。」といふ
所へ、
濱野さんが、
下駄を
鳴して
飛んで
戻つて、「づか/\
庭から
入りますとね、それ、あの
爺さん。」といふ、
某邸の
代理に
夜番に
出て
「
湯どのだ、
正體は
見屆けた、あの
煙だ。」といふと、
濱野さんが
鼻を
出して、
嗅いで
見て、「いえ、あのにほひは
石炭です。
一つ
嗅いで
來ませう。」と、いふことも
慌てながら
戸外へ
飛び
出す。