湧出わきで)” の例文
しかもお雪が宿の庭つづき竹藪たけやぶ住居すまいを隔てた空地、直ちに山の裾が迫る処、その昔は温泉湧出わきでたという、洞穴ほらあなのあたりであった。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私は屋敷中で一番早くよるになるのは、古井戸のあるの崖下……否、よるは古井戸の其底から湧出わきでるのではないかと云う感じが、久しいのちまで私の心を去らなかった。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
何処どこから現われたのかすこしも気がつかなかったので、あだかも地の底から湧出わきでたかのように思われ、自分は驚いてく見ると年輩としは三十ばかり、面長おもながの鼻の高い男、背はすらりとした膄形やさがた
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
蔵王山ざわうさんふもと湧出わきでる硫黄泉の湯尻ゆじりが、一つの大きい滝瀬をなして流れてゐる。それが西に向つて里へ里へと流れ下つて、金瓶村の東境ひがしざかひに出るとそこから急に折れて北へ向つて流れる。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
たとえようもなく清洌せいれつな純粋な漢の国土への愛情(それは義とか節とかいう外から押しつけられたものではなく、おさえようとして抑えられぬ、こんこんと常に湧出わきでる最も親身な自然な愛情)がたたえられていることを
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
気のせいで、浅茅生を、縁近えんぢか湧出わきでる水の月のしずく点滴したたるか、と快く聞えたのが、どくどく脈を切って、そこらへ血が流れていそうになった。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しろく、くもしろく、そらしろい。のんどりとして静寂せいじやく田畠たはたには、つち湧出わきでて、装上もりあがるやうなかはづこゑ。かた/\かた/\ころツ、ころツ、くわら/\くわら、くつ/\くつ。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
して、ばあさんのみせなりに、おうら身体からだむかふへ歩行あるいて、それが、たにへだてたやま絶頂ぜつちやうへ——湧出わきでくも裏表うらおもてに、うごかぬかすみかゝつたなかへ、裙袂すそたもとがはら/\と夕風ゆふかぜなびきながらうすくなる。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)