柔術やわら)” の例文
柔術やわらの奥儀を、いかにも所望どおりに貸してやろうといわんばかりなたのもしいいでたちで、黙々と表へ歩きだしたものでしたから
「小具足腰の廻わり」も必要であり「捕手」「柔術やわら」も大切であった。「強法術」は更に大事、「手裏剣」の術も要ありとされた。
五右衛門と新左 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「不断やっとうの心得があるとか、柔術やわらがいけるとか、腕自慢ばかりしていた弥惚だが、石の唐櫃に首を挟まれちゃ一とたまりもないね」
「ふん。」狂太郎は、小鼻をうごめかして、「この手、ほら、この、おれの手を取る手が——おめえ、柔術やわらは、相当やるのう。」
口笛を吹く武士 (新字新仮名) / 林不忘(著)
遊女屋の二階で柔術やわらの手を出して、若者わかいもの拳骨げんこつをきめるという変り物でございますが、大夫たいふが是にいらっしゃるのを知らないからの事さ
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
生不動の家にいた頃は、彼の柔術やわらに対って十度が十度とも勝てなかった自分に、いつこういう力がついたのだろうかと怪しまれるばかり。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
柔術やわらの手だとも、俺が新発明の柔術の新手だわい、もっとも古い型を少しは取り入れてあるんだがな、それを場合に当って器用にほどこし用いたというのが拙者の働きさ」
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
岩下左内という奥州浪人は、四、五年前からここに稽古所を開いて、昼は近所の子供たちに読み書きを教え、夜はまた若い者共をあつめて柔術やわらや剣術を指南していた。
家令家扶堪えかね、目配めくばせして、「山本、熊田、其奴そやつたたけ。」と昔取りたる杵柄きねづかにて柔術やわらも少々心得たれば、や、と附入りて、えい、といいさま、一人を担いで見事に投げる。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
実はこの頃、肥り過ぎて子供相手に柔術やわらが取れんので困っとる。技術わざに乗ってやれんでのう
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「どうするんだ、柔術やわらの稽古かね」
扇野 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
藤「あいた……いけません、遊女屋で柔術やわらの手を出してはいけません、わたしどもの云う事を聴くのではございませんから」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
しかし、そうなったところで、幾ぶんでも柔術やわらなり竹刀しないの下地がある浪人者に、及ばなくなったのは当りまえであった。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
草角力くさずもうの大関で、柔術やわら、剣術一と通りの心得はあるという触れ込みで雇われた力松が、刃物を持っているのですから、これは容易ならぬことでした。
といって、いま一度術を施し直そうとしたときは、一瞬早くむっつり右門の草香流柔術やわらの逆腕が相手の右手をさかしらにうしろへねじあげていたときでした。
附き添っている十人の中には、剣客もあれば力士もあり柔術やわらに達した浪人もあり、手代、番頭、小作頭もある。それらさまざまの人物がギッシリ一部屋に集まった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼は又、かつて読んだ八犬伝のうちで、犬飼現八いぬかいげんぱち庚申山こうしんざんに分け入るの一段を思い出した。現八は柔術やわらに達していたので、岩の多い難所なんじょを安々と飛び渡ったと書いてある。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
まるで柔術やわらの乱取りのありさま、一人を中に起きたり倒れたり、誰が誰だかわからないが、景気のいいことこのうえない。なかにこすいやつは、ひとり勝手に尻餅しりもちをついて
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
柔術やわらには「辻投げ」というのがある。ならば「辻取り」というのもあってよかろうはず。いや、その物語によれば、辻取りは、辻斬りや、辻投げの流行せしずっと以前に行われていたはず。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
すれ違う女の眼で、こっちへ黒目を流さねえ奴はありゃしねえ、柔術やわらと剣術にゃ不向きに出来ているんだから、こいつあどうも仕方があるめえなあ
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
廿人力ある奴が力を入れて押したから流石さすがの文治もよろめきながら石垣の処へ押付けられましたが、そこは文治郎柔術やわらを心得て居りますから少しも騒がず
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「腕自慢でございました。柔術やわらも剣術も、弓も馬もひと通りはやったが、わけても剣術は自慢だったようで、免許とやらを取って居ると言っておりました」
大小を取って、衣類を脱がせて、裸にして、水を吐かせて、相当の摩擦を加えてみようとの機転もかないらしく、せめて柔術やわらの手で、活法を施してみようとの修練も欠けているようです。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
紀州熊野くまのの住人日下くさか六郎次郎が、いにしえ元亀げんき天正のみぎり、唐に流れついて学び帰った拳法けんぽうに、大和やまと島根の柔術やわらを加味くふうして案出せると伝えられる、護身よりも攻撃の秘術なのでした。
「どうぞお供させてくださいまし。でも、歌子様は、わたくしのようなものはおきらいでございますまいか。歌子さまとおっしゃいますのは、よく旦那様がお噂なさいます、あの、薙刀なぎなた柔術やわらのおできになる方でございましたね」
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「その女柔術やわらでも出来るのかな?」
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「その男女ふたりが密会している所を、佐渡平に見つけられたので、覆面の男が、柔術やわらの手で打ち殺したものと思う」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
娘のころ江戸のお屋敷で長刀なぎなたのひと手、柔術やわらから小太刀こだちまで教わり、家中かちゅうでも評判の腕前だったってね。
ベッタリ泥田の中へ転がり込む、なれども新五郎は柔術やわらも習った腕前、力に任して引倒し
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
あすこが見物みものなんでげす、あれがその、柔術やわらの方で逆指といって、左の指の甲の方からこうしてつかんで、掌を上の方へこう向けて強くあげるんでげすな、そうするとそれ、指を取られた方は
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
安宅あたかの弁吉、小人こびと三次郎などはどうでしょう。弁吉は小太刀をよく使うそうで、仲間では評判の腕ききですよ。小人三次郎は橋場の家に弟子を取って、柔術やわらの稽古を
彼が勇敢なるゆえは、その柔術やわらも刀法も、いわゆる大名育だいみょうそだちでして、真に世の中の怖い者に会った例が少ないからでもありましょうが、近頃は、多少社会の浅瀬を踏んで
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と口惜しいから松五郎にかぶり附きに掛ると、松五郎は少しく柔術やわらの手を心得て居りますから、茂之助の胸倉をとらえて押してきますと、の辺には所々ところ/″\に沼のような溜り水が有ります。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
いつぞやはまた上野の山下で、持余もてあまものの茶袋を、ちょいと指先をつまんで締め上げて、ギュウと参らせてしまったところなんぞは、どのくらい柔術やわらの方に達しておいでなさるんだか底が知れねえ。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と二度目に刎ね返ったかと思えば、一流の柔術やわら取り金井一角ともあろうものが、ほとんど蹴上げられた鞠の如く、七、八間も彼方あなたへ投げ飛ばされてウームと悶絶してしまった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
姿は優しゅうございますが、柔術やわらに達した梅三郎に押えられたからたまりません。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
こいつはほんとうに柔術やわらでも取るのか知らと惑いました。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
梅「清藏どん、取押えた、なか/\勝手を知った奴と見えて、廊下伝いに入った、力のある奴だが、柔術やわらの手で押えたら動けん、今暴れそうにしたからうんと一当ひとあてあてたから縛って下さい」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
はッと思うとたんに、柔術やわらの無双ほどき、ずでんと、前へうッちゃられる。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
最前からの山冷やまびえにて手足も凍え、其の儘に打倒うちたおれましたが、女の一心、がばと起上り、一喝いっかつ叫んでドンと入れました手練しゅれん柔術やわら、一人の舁夫はウームと一声ひとこえ、倒れるはずみに其の場を逃出しました。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
山「へえ成程杉村内膳、柔術やわらは……うん成程澁川流しぶかわりゅう小江田こえだというのが御指南番で、成程あれは老人だが余程よっぽど澁川流の名人という事を聞きました…成程して強い御家来衆も有る事でげしょうなア」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)