ます)” の例文
和尚さんが村の家々の戸口に立つて、短い経を読むと、百姓達はもうちやんと知つてゐて、新しい米をますに入れて奥から出て来ます。
百姓の足、坊さんの足 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
○それで明治座へ行って、自分のます這入はいってみると、ただ四方八方ざわざわしていろいろな色彩が眼に映る感じが一番強かった。
死骸はその凹路を平地と水平にし、ますにきれいにはかられた麦のようにその縁と平らになっていた。上部は死骸しがい堆積たいせき、下の方は血潮の川。
戸を細めている真暗な居酒屋の軒下に立って、一角は、ますをうけ取った。といの雨水が、ざっざと、背なかを打つのであった。
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
稀有けうの徴税法 ここに一つ可笑おかしい事がある。大蔵省でマルを量るはかりがおよそ二十種ばかりある。それから麦、小麦、豆等を量るますも三十二種ある。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
惡い番頭が勝手にそんなものをこしらへて、自分の懷ろをこやして居たのを、何にも知らない俺達の親父とお袋が罪を背負しよはされ、いかさまますは罪が深いと言ふので
そこで一人づつ、持つてゐる茶碗をさかさまにして、米屋が一合ますで米をはかるやうに、ぞろぞろ虱をその襟元へあけてやると、森は、大事さうに外へこぼれた奴を拾ひながら
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
米櫃こめびつの蓋をとってますで計ってみている妻の手つきがかたかた寒い音を立てている。
哲学上にて、人知は相対かつ有限にして、宇宙は絶対かつ無限であると申しますが、有限のますをもって無限の水を量ること難く、相対の人知をもって絶対の宇宙を知ることはむつかしい。
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
ます目結めゆいらい源氏香図げんじこうずなどの模様は、平行線として知覚されることが必ずしも不可能でない。殊に縦に連繋れんけいした場合がそうである。したがってまた「いき」である可能性をもっている。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
牛や犬・猫・鶏には、もちろん銘々めいめいの年取りがあったのみならず、同じ晩はまた道具の年越と称して、うすますの類まで、一ところに集めて鏡餅かがみもちを供える風が、実際はまだ決してまれでない。
拝啓 昨日は失敬本日学校でモリスに聞いて見た所二十八日の喜多きたの能を見に行くからますを一つ(上等な所。あまり舞台が鼻の先にない所を)とってもらいたいという事であります。どうか願います。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
ひとのからだをますではかる。七斗だの八斗だのという。
フランドン農学校の豚 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
、……むしゃくしゃするから、台所へ掛合ってますで飲んだ、飲んだが、何うだ。会費じゃあねえぜ。二升や三升で酔うような行力じゃねえ、酔やしねえが、な、見ねえ。……ぎょくに白粉で、かもじと来ちゃあ堪らねえ。あいよ、ねえさん。
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
四角に仕切った芝居小屋のますみたような時間割のなかに立てこもって、土竜もぐらのごとく働いている教師よりはるかに結構である。
作物の批評 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それはみな大小異なって居るので、まずボーチクというのがほぼ我が国の一ますと同じであって正当な枡である。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「いかさまますを拵へた張本人の番頭は、それつきり行方ゆくへ知れず。俺達兄弟のうらみは、兩親に繩を打つたお前——與力笹野新三郎にかゝるのは當り前の事ぢやないか」
しょうますの冷酒に舌うち鳴らした上、料紙とすずりを借りうけ、何かしたためたものを小袖づつみの生首のもとどりに結びつけて、たッた今愛宕あたご通りを左へ曲がって行ったということが仔細に分った。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ますを持ち出して、反物の尺を取ってやるから、さあ持って来いと号令を下したって誰も号令に応ずるものはありません。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかるに場合によるとその枡より大きな一斗五しょうますで取立てる事もあり、また七升五合枡で取立てる事もあるから、納税者にとっては大変幸不幸がある。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
血の巡りが悪いからお前は気がつかなかったろうが、何を隠そう俺達はな、——八合判のいかさまますを使ったという罪で、三年前に獄門になった、米屋——越後屋勇助えちごやゆうすけ夫婦の忘れ形見だよ
十段目に、初菊が、あんまり聞えぬ光よし様とか何とかいうところでしなをしていると、私の隣のますにいた御婆さんが誠実に泣いてたには感心しました。
虚子君へ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
血の巡りが惡いからお前は氣がつかなかつたらうが、何を隱さう俺達はな、——八合判のいかさまますを使つたといふ罪で、三年前に獄門ごくもんになつた、米屋——越後屋勇助夫婦の忘れ形見だよ
すわりくたびれたとみえて、ますの仕切りに腰をかけて、場内を見回しはじめた。その時三四郎は明らかに野々宮さんの広い額と大きな目を認めることができた。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
世話人は巴屋の番頭手代に、町内の鳶頭とびがしら、臨時にかり集めた人足など、土間に積んだ二三十俵の白米を一俵ずつほぐすと、順々に入って来る女子供へ、ますで量って威勢よくけてやっております。
岡はからめて本郷から起る。高き台をおぼろに浮かして幅十町を東へなだれるくちは、根津に、弥生やよいに、切り通しに、驚ろかんとするものをますはかって下谷したやへ通す。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ますすみからばかり飲むからだよ」