手鍋てなべ)” の例文
今しがた、この女が、細道をすれ違った時、きのこに敷いた葉を残したざるを片手に、く姿に、ふとその手鍋てなべ提げた下界の天女のおもかげを認めたのである。
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
幾百人かのそれらの移住者の中には「どてら」に脚絆きゃはん麻裏穿あさうらばきという風俗のものがあり、手鍋てなべげたものがあり、若い労働者の細君らしい人達まで幾人いくたりとなくその中に混っていたことを思出した。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「待ってました! 手鍋てなべさげてもの意気いきで、ひとつ願いやすぜ」
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
……あの戸口には、羽衣を奪われた素裸の天女が、手鍋てなべを提げて、その男のために苦労しそうにさえ思われた。
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
手鍋てなべぐる意氣いきげきして、所帶しよたい稽古けいこ白魚しらうをめざしつくなりしかすがいぢらしとて、ぬきとむるはなるをよ。いといろも、こぼれかゝる袖口そでくちも、篝火かゞりびたるかな。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
浜で手鍋てなべの時なんかは、調子に乗って
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)