引背負ひっしょ)” の例文
脚絆きゃはんを堅く、草鞋わらじ引〆ひきしめ、背中へ十文字に引背負ひっしょった、四季の花染はなぞめ熨斗目のしめ紋着もんつき振袖ふりそでさっ山颪やまおろしもつれる中に、女の黒髪くろかみがはらはらとこぼれていた。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
きみのとこは風呂敷にもしろ、よしんば中がからだって、結びめを蝶々にしたろう。裸体はだかでそいつを引背負ひっしょったって、羽の生えた処は、天津風あまつかぜ雲の通路かよいじじゃないか。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何んですかねえ、十文字に小児こども引背負ひっしょって跣足はだし歩行あるいている、四十恰好かっこうの、巌乗がんじょうな、絵にいた、赤鬼あかおにと言った形のもののように、今こうやってお話をしますうちも考えられます。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と続いた、てんぼう蟹は、夥間なかまの穴の上を冷飯草履ひやめしぞうり、両足をしゃちこばらせて、舞鶴の紋の白い、萌黄もえぎの、これも大包おおづつみ。夜具を入れたのを引背負ひっしょったは、民が塗炭とたんくるしんだ、戦国時代の駆落かけおちめく。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やがて孫呉空そんごくうが雲の上を曳々声えいえいごえ引背負ひっしょったほどな芭蕉を一枚、ずるずると切出すと、ぷん真蒼まっさおにおいが樹の中にこもって、草の上を引いて来たが——全身ひっくるまって乗っかった程におおきいのである。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
言わっしゃったで、一風呂敷と夜具包みを引背負ひっしょって出向いたがよ。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お仏壇は、蔦ちゃんが人手にゃ渡さねえ、と云うから、わっし引背負ひっしょって、一度内へけえったがね、何だって、お前さん、女人禁制で、蔦ちゃんに、さいふらせねえで、城を明渡すんだから、むずかしいや。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)