岩窟がんくつ)” の例文
荒い岩山には、ぽかっと、まっ黒な岩窟がんくつらしい穴が、あちこちに見える。たくさんの海鳥が、あやしい鳴声をして、みだれ飛んでいる。
無人島に生きる十六人 (新字新仮名) / 須川邦彦(著)
二岩団三郎は神社として祭られてあり、かつ、その所住と称せらるる岩窟がんくつにはたえず参詣さんけい者があって、赤飯やもちなどを供えて置く。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
其所そこで、その岩窟がんくつなるものが、そもそんであるかを調しらべる必用ひつようしやうじ、坪井理學博士つぼゐりがくはかせだい一の探檢調査たんけんてうさとなつた。それは九ぐわつ十二にちであつた。
爾後じごうるときは鉄丸をくらい、かっするときは銅汁を飲んで、岩窟がんくつの中に封じられたまま、贖罪しょくざいの期のちるのを待たねばならなかった。
おお、あそこの岩窟がんくつのなかに据えたならば、等身の、マリア観音そのままだと、モルガンがお雪を愛撫あいぶする心は、尊敬をすらともなって来た。
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
せっかく手に入れた操縦器をぶちこわすのは、残念だが、どうも仕方がない。帆村は、その岩窟がんくつの隅にもたせてあった大きな鉄の棒をとりあげた。
人造人間エフ氏 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ばり、ばり、と枯木や、落葉を踏みしめて来た谷間の岩窟がんくつ——あたらずの岩壁——魔の口のような真っ暗な岩屋牢。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひるかりしてけものしよくとし、夜は樹根きのね岩窟がんくつ寝所ねどころとなし、生木なまきたいさむさしのぎかつあかしとなし、たまゝにて寝臥ねふしをなす。
どこの岩窟がんくつの間から出て来たか、雪のある山腹の方からでも降りて来たかというふうで、山にはこんな人が生きているのかということが、半蔵を驚かした。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
背景には、いちめん岩窟がんくつの道具だて、そのまんなかに、一つの部屋があり、ふしぎなかたちの機械や、化学実験の道具などが、ところせまく、ならんでいます。
怪奇四十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
木曽川の岩頭ともえふちで、花村甚五衛門のやいばにかかって危く非業ひごうに死のうとした時、不思議に命を助けられた、岩窟がんくつの中の老異人、それを思い出しているのであった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
たま/\人を捕へては我住む岩窟がんくつに連れゆき、強ひて夫婦のかたらひを求む。我心に従はざるときは其人を殺せり。力強くして丈夫に敵す。好みて人の小児を盗む。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
さん公谷こだにと云う渓合たにあいに移り、そこに王の御殿ごてんを建て、神璽はとある岩窟がんくつの中にかくしていたと云う。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ぎにかまど地獄を見た。これは地中の鬼がうめくような声を発して、岩窟がんくつの中から熱気を吐き出しているのである。その熱気で蒸したアンコのないまんじゅうがおいしかった。
別府温泉 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
「老体になっておりまして、岩窟がんくつを一歩出ることもむずかしいのですから」
源氏物語:05 若紫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
が、むべき岩窟がんくつを、かつ女賊ぢよぞくかくであつたとふのはをしい。……
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
数ヵ月前、富士男が失望湾の浜辺で発見したという岩窟がんくつきょをかまえ、ニュージーランド川の森でりょうをして食糧にあてれば、眠食ともに不自由なく、気ままの生活ができる、というのである。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
畢竟ひっきょうはそういうものをいかにして取り扱ってよいかという見当がつかなかったせいもあろうが、一つにはまた物理学がその「伝統の岩窟がんくつ」にはまり込んで安きをぬすんでいたためとも言われうる。
備忘録 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
どう大動搖だいどうえうはじめた。はやなかたいからである。けれどもなが密閉みつぺいせられてある岩窟がんくつ内部ないぶには、惡瓦斯あくぐわす發生はつせいしてるに相違さうゐない。
また、彼らの口碑こうひに伝うるところによれば、先祖は山上の岩窟がんくつの間より生まれ出でたりとも、あるいは天より降りきたれりとも申しておる。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
「それはね、昔、外国船の難破した人たちが、この無人島に流れついて、七年間も、岩窟がんくつに住んでいた。そして、うえ死にしたということだ」
無人島に生きる十六人 (新字新仮名) / 須川邦彦(著)
あたりは、岩窟がんくつに入ったように真暗で、そしてひょうがとんでいた。折々ぴかりとはげしい電光が、密雲の間で光った。
空中漂流一週間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
広太郎の眼前に展開されている部屋は、広さおおよそ二十畳敷きぐらい、自然と出来た岩窟がんくつで、その正面の奥深いところに、人工を加えた祭壇があり、その上に巨像が立っていた。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
大和の三輪みわの神話と豊後の尾形氏の古伝とは、或いはその系統を一にするかとの説あるにもかかわらず、後者においては神は誠に遠慮勝ちで、岩窟がんくつの底に潜んで永く再び出でなかった。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
やっぱり海の底の岩窟がんくつなのか、千代子には一切様子が分らず、怖いと思えば此上もなく怖いのですけれど、その様なことよりは、指先を、血が通う程も握り合った、男の腕の力が嬉しくて
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
はずかしいことだが、今でも、こんなあさましい身と成り果てた今でも、おれは、己の詩集が長安ちょうあん風流人士の机の上に置かれている様を、夢に見ることがあるのだ。岩窟がんくつの中に横たわって見る夢にだよ。
山月記 (新字新仮名) / 中島敦(著)
やがて、かれは薄暗い岩窟がんくつから外へいだした。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いまこの岩窟がんくつ説明せつめいするに、もつとかいやすからしめるには、諸君しよくん腦裡のうりに、洋式ようしき犬小屋いぬごやゑがいてもらふのが一ばんだ。
二人は、また岩窟がんくつにかえり、手提電灯てさげでんとうをさがしてから、改めて山を下っていった。
人造人間エフ氏 (新字新仮名) / 海野十三(著)
衣として住む。近代信濃の深山に岩窟がんくつあり、之に遊びて年未だ老いず
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
すでに二岩神社として祭られている。余も佐州さしゅう客居中これを訪問して見たが、相川より半里ばかり隔つる山頂に天然の岩窟がんくつがある。その中に二岩団三郎と称する貉の巨魁きょかいが住んでいるとの伝説である。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
岩窟がんくつの押し問答もんどう
人造人間エフ氏 (新字新仮名) / 海野十三(著)