小袿こうちぎ)” の例文
その時にほうぼうの織物師が力いっぱいに念を入れて作り出した厚織物の細長や小袿こうちぎの仕立てたのを源氏は手もとへ取り寄せて見た。
源氏物語:22 玉鬘 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「お身さまの前では申し上げられませぬ」と、玉藻は藤紫の小袿こうちぎの袖でせつない胸をかかえるように俯向いた。嵐は桜の梢をゆすって通った。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
主が年の頃は十七八になりもやせん、身には薄色に草模樣を染めたる小袿こうちぎを着け、水際みづぎは立ちしひたひよりたけにも餘らん濡羽ぬれは黒髮くろかみ、肩に振分ふりわけてうしろげたる姿、優に氣高し。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
紫と襟色を重ねた小袿こうちぎを着、つややかな黒髪をうしろに下げていたが、親の家の門を、幾歩か、出ると、その黒髪も小袿の袖も、空へ舞いちぎられるように、赤城颪あかぎおろしに吹かれていた。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
郡司は女に一枚の小袿こうちぎを与えて、髪などもいて、よく化粧してくるようにと言いつけた。女は何んのことか分からなかったが、命ぜられたとおりの事をして、再び郡司の前に出ていった。
曠野 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
素足、小袿こうちぎつま端折りて、片手に市女笠いちめがさを携え、片手に蓮華燈籠を提ぐ。第一点のともしびの影はこれなり。黒潮騎士こくちょうきし、美女の白竜馬をひしひしと囲んで両側二列を造る。およそ十人。皆崑崙奴くろんぼの形相。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
芸者上りに小袿こうちぎを着せ、大きな顔で北ノ方に据えているものもいる。
湖畔 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
これは紅紫かと思われる濃い色の小袿こうちぎに薄臙脂えんじの細長を重ねたすそに余ってゆるやかにたまった髪がみごとで、大きさもいい加減な姿で
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
練衣ねりぎぬ小袿こうちぎくれないはかま、とばかりでは言足らぬ。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
形式は尼になっておいでになる方であるが、髪で額を隠して、お化粧もきれいにあそばされ、はなやかな小袿こうちぎなどにもお召しかえになる。
源氏物語:21 乙女 (新字新仮名) / 紫式部(著)
細々こまごましい手紙の内容は省略する。贈り物の使いは帰ってしまったが、そのあとで空蝉は小君こぎみを使いにして小袿こうちぎの返歌だけをした。
源氏物語:04 夕顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
と言って小袿こうちぎにつける単衣ひとえの生地を持って来た時、悲しいような気になった姫君は、気分が悪いからと言って手にも触れずに横になってしまった。
源氏物語:55 手習 (新字新仮名) / 紫式部(著)
柳の色の厚織物の細長に下へ萌葱もえぎかと思われる小袿こうちぎを着て、薄物の簡単なをつけて卑下した姿も感じがよくてあなずらわしくは少しも見えなかった。
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
あの薄衣うすもの小袿こうちぎだった。なつかしい気のするにおいが深くついているのを源氏は自身のそばから離そうとしなかった。
源氏物語:03 空蝉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
小袿こうちぎを下に重ねた細長のなつかしい薫香たきもののにおいのんだのを、この場のにわかの纏頭てんとうに尚侍は出したのであるが
源氏物語:46 竹河 (新字新仮名) / 紫式部(著)
と源氏が言っている間、顔を横向けていた玉鬘たまかずらの側面が美しく見えた。派手はでな薄色の小袿こうちぎ撫子なでしこ色の細長を着ている取り合わせも若々しい感じがした。
源氏物語:24 胡蝶 (新字新仮名) / 紫式部(著)
白い薄衣うすものの単衣襲に淡藍うすあい色の小袿こうちぎらしいものを引きかけて、あかはかまひもの結び目の所までも着物のえりがはだけて胸が出ていた。きわめて行儀のよくないふうである。
源氏物語:03 空蝉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
物哀れな気持ちになっていて明石は十三げんの琴をきながら縁に近い所へ出ていたが、人払いの声がしたので、平常着ふだんぎの上へさおからおろした小袿こうちぎを掛けて出迎えた。
源氏物語:28 野分 (新字新仮名) / 紫式部(著)
頭中将や弁の少将などにも目だつほどの纏頭てんとうでなく、細長とか小袿こうちぎとかを源氏は贈ったのであった。
源氏物語:32 梅が枝 (新字新仮名) / 紫式部(著)
紅梅色の浮き模様のある紅紫の小袿こうちぎ、薄い臙脂紫えんじむらさきの服は夫人の着料として源氏に選ばれた。桜の色の細長に、明るい赤い掻練かいねりを添えて、ここの姫君の春着が選ばれた。
源氏物語:22 玉鬘 (新字新仮名) / 紫式部(著)
今が十五、六で、背丈せたけが低くふとった、きれいな髪の持ち主で、小袿こうちぎたけと同じほどの髪のすそはふさやかであった。その髪をことさら賞美して撫でまわしている守であった。
源氏物語:52 東屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
この人は大和守やまとのかみの妹で、御息所みやすどころめいであるというほかにも、子供の時から御息所のそばで世話になっていた人であったから喪服の色は濃かった。黒を重ねた上に黒の小袿こうちぎを着ていた。
源氏物語:40 夕霧二 (新字新仮名) / 紫式部(著)
母代わりをしていた祖母であったから除喪のあとも派手はでにはせず濃くはない紅の色、紫、山吹やまぶきの落ち着いた色などで、そして地質のきわめてよい織物の小袿こうちぎを着た元日の紫の女王は
源氏物語:07 紅葉賀 (新字新仮名) / 紫式部(著)
にび色の物の用意に不足もなかったから、小袿こうちぎ袈裟けさなどがまもなくでき上がった。
源氏物語:55 手習 (新字新仮名) / 紫式部(著)
陰気な黒ずんだ赤の掻練かいねり糊気のりけの強い一かさねの上に、贈られた柳の織物の小袿こうちぎを着ているのが寒そうで気の毒であった。重ねに仕立てさせる服地も贈られたのであるがどうしたのであろう。
源氏物語:23 初音 (新字新仮名) / 紫式部(著)
青鈍あおにび色の細長、落栗おちぐり色とか何とかいって昔の女が珍重した色合いのはかま一具、紫が白けて見える霰地あられじ小袿こうちぎ、これをよい衣裳箱に入れて、たいそうな包み方もして玉鬘たまかずらへ贈って来た。手紙には
源氏物語:29 行幸 (新字新仮名) / 紫式部(著)