大丸髷おおまるまげ)” の例文
貞奴はその妹分の優しい、初々ういういしい大丸髷おおまるまげの若いお嫁さんの役で、可憐かれんな、本当にの貞奴の、廿代はたちだいを思わせる面差おもざしをしていた。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
色は浅黒く、利かぬ気らしい精博の気が顔にあふれ、糸のような細い眼に、異様な光がある。大丸髷おおまるまげに、桜の花びらが幾ひらも乗っている。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
もう二十歳はたちにもなって、大丸髷おおまるまげの赤い手絡てがら可笑おかしいくらいなお静が、平常ふだん可愛がられすぎて来たにしても、これはまたあまりに他愛がありません。
黒の唐繻子とうじゅすの帯を締めて、黒縮緬の羽織なら何処へ出しても立派な奥さん、また商人あきんどの内儀にも好し、権妻てかけにも、新造だって西洋げんぶく大丸髷おおまるまげでも好し
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
経机にもたれて、じっと向いのふすまの紋ちらしを見入っている、大丸髷おおまるまげに黒の紋つきを着て、縫模様のある帯をしめた、色のあくまで白い、髪のしたたるほどに濃い
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
生垣いけがきの外を通るものがあるから不図ふと見れば先へ立つものは、年頃三十位の大丸髷おおまるまげの人柄のよい年増としまにて、其頃そのころ流行はやった縮緬細工ちりめんざいく牡丹ぼたん芍薬しゃくやくなどの花の附いた燈籠を
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
何という生地きじかわからぬ金線入きんせんいり、刺繍裾模様の訪問着に金紗きんしゃの黒紋付、水々しい大丸髷おおまるまげだ。上げた顔を見ると夢二式の大きな眼。小さな唇。卵型のあご。とても気品のある貴婦人だ。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
白い雨外套あまがいとうを着た職工風の男が一人、かすりの着流しに八字髯はちじひげはやしながらその顔立はいかにも田舎臭い四十年配の男が一人、めかけ風の大丸髷おおまるまげ寄席よせ芸人とも見える角袖かくそでコートの男が一人。
寺じまの記 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
津田は眼をぱちつかせて、赤い手絡てがらをかけた大丸髷おおまるまげと、派出はで刺繍ぬいをした半襟はんえりの模様と、それからその真中にある化粧後けしょうごの白い顔とを、さも珍らしい物でも見るような新らしい眼つきで眺めた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
外出する時はお梅さんという玄冶店げんやだなの髪結いに番を入れさせ、水々した大丸髷おおまるまげを結い、金具に真珠をちりばめた、ちょろけんの蟇口型がまぐちがたの丸いオペラバックをげ、どこともいわず昼間出て行くのだったが
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
でも、お師匠しょさん、すこし根下りの大丸髷おおまるまげに、水色鹿の手柄で、鼈甲べっこうくしが眼に残っていますって——黒っぽい透綾すきやの着物に、腹合せの帯、襟裏えりうら水浅黄みずあさぎでしたってね。
市川九女八 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
女の話を訊こうとすると、そこへ大丸髷おおまるまげ四十前後の、恐ろしく若造りな女が出て来ました。
三十位に見える大丸髷おおまるまげ年増としまが、其のころ流行はやった縮緬細工ちりめんざいくの牡丹燈籠を持ち、其の後から文金の高髷たかまげに秋草色染の衣服を、上方風の塗柄ぬりえ団扇うちわを持った十七八に見えるきれいな女が
円朝の牡丹灯籠 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
夜のおそきをいとわず、御行おぎょうの松の下屋敷へかえって来て、戸を叩くと、まだ寝ていなかったらしいお絹が、直ぐに戸をあけてくれたのを見ると、今日は、でかでかと大丸髷おおまるまげのしどけない姿。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
え渡る十三日の月を眺めていますと、カラコン/\と珍らしく下駄の音をさせて生垣いけがきの外を通るものがあるから、不図見れば、きへ立ったのは年頃三十位の大丸髷おおまるまげの人柄のよい年増としまにて
彼女は、首をすくめて、ふとんをかぶると、大丸髷おおまるまげが枕にひっかかった。
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
お絹は大丸髷おおまるまげに手拭を着せて、主膳の居間の掃除をはじめました。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)