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啻
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ただ
ふりがな文庫
“
啻
(
ただ
)” の例文
何
(
なん
)
となれば娼婦型の女人は
啻
(
ただ
)
に交合を恐れざるのみならず、又実に
恬然
(
てんぜん
)
として個人的威厳を顧みざる天才を
具
(
そな
)
へざる
可
(
べか
)
らざればなり。
娼婦美と冒険
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
東上州から見た冬の秩父連山は、
啻
(
ただ
)
に色彩がうるわしい許りでなく、自分には更に懐しい思い出の湧く山である。或年の冬であった。
秩父の奥山
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
啻
(
ただ
)
に徳永商店の招聘に応じたばかりでなく、別に或筋からの使命を受けていたという説もある。が、恐らくは一個の想像説であろう。
二葉亭四迷の一生
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
啻
(
ただ
)
に少年のみならず、政治家、法律家などに至るまでも耽読されたと言われ、スティーヴンスンの名声を初めて高めたのであった。
宝島:01 序
(新字新仮名)
/
佐々木直次郎
(著)
進退
(
しんたい
)
これきわまるとは
啻
(
ただ
)
に自転車の上のみにてはあらざりけり、と
独
(
ひと
)
りで感心をしている、感心したばかりでは
埒
(
らち
)
があかないから
自転車日記
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
▼ もっと見る
しかし顔淵の
好処
(
こうしょ
)
は
啻
(
ただ
)
にこれのみではない。「
回之為人也
(
かいのひととなりや
)
、
択乎中庸
(
ちゅうようをえらび
)
、
得一善
(
いちぜんをうれば
)
、
則拳拳服膺
(
すなわちけんけんふくようして
)
、
而弗失之矣
(
これをうしなわず
)
」というのがこれである。
渋江抽斎
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
僕は
啻
(
ただ
)
にカッフェーの給仕女のみならず、今日に在っては新しき演劇団の女優に対しても以前の如くに侮蔑の目を以てのみ看てはいない。
申訳
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
老人の説によると、釣魚は
啻
(
ただ
)
に神経衰弱の自然療法ばかりでない。釣れるか釣れないかという不確実なところに
博奕
(
ばくち
)
の興味を備えている。
脱線息子
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
而してかくの如き意識統一の頂点即ち主客合一の状態というのは
啻
(
ただ
)
に意識の根本的要求であるのみならずまた実に意識本来の状態である。
善の研究
(新字新仮名)
/
西田幾多郎
(著)
太祇
(
たいぎ
)
蕪村
召波
(
しょうは
)
几董
(
きとう
)
らを学びし結果は
啻
(
ただ
)
に新趣味を加へたるのみならず言ひ廻しに自在を得て複雑なる事物を能く料理するに至り
墨汁一滴
(新字旧仮名)
/
正岡子規
(著)
コンドルセエ氏の著書は、
啻
(
ただ
)
に一有名人の所見の概要たるのみならず、また革命当初のフランスの多くの文人の所見の概要たるものである。
人口論:03 第三篇 人口原理より生ずる害悪を除去する目的をもってかつて社会に提案または実施された種々の制度または方策について
(新字新仮名)
/
トマス・ロバート・マルサス
(著)
啻
(
ただ
)
に政府ばかりでない、議会をはじめ誰も彼も皆大逆の名に恐れをして一人として聖明のために
弊事
(
へいじ
)
を除かんとする者もない。
謀叛論(草稿)
(新字新仮名)
/
徳冨蘆花
(著)
日本石器時代の研究は
啻
(
ただ
)
に日本の地に
於
(
お
)
ける古事を明かにする力を有するのみならず
人類學
(
じんるゐがく
)
に益を與ふる事も亦極めて大なり。
コロボックル風俗考
(旧字旧仮名)
/
坪井正五郎
(著)
啻
(
ただ
)
に一人の兄弟を失ふのみならず社会は何程
毀損
(
きそん
)
されるかも知れないと、——先生を殺すものは——
必竟
(
ひつきやう
)
先生の愛心だ——アヽ
火の柱
(新字旧仮名)
/
木下尚江
(著)
そうして
啻
(
ただ
)
にたびたびそこを訪れるのみならず、進んで広く紹介する役割をかって出るであろう。陳列を終る時、私はよくそう考えるのです。
日本民芸館について
(新字新仮名)
/
柳宗悦
(著)
啻
(
ただ
)
に家庭婦人と家庭男子とばかりでなく、一切の男女を保護せねばならない事は、文化生活の一条件として今更論ずるまでもないことですが
新婦人協会の請願運動
(新字新仮名)
/
与謝野晶子
(著)
啻
(
ただ
)
に蒔絵ばかりではない、織物などでも昔のものに金銀の糸がふんだんに使ってあるのは、同じ理由に基づくことが知れる。
陰翳礼讃
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
啻
(
ただ
)
に男女の間のみならず、男子と男子との争にも婦人の仲裁を以て波瀾を収めたるの例は、世人の常に見聞する所ならずや。
女大学評論
(新字新仮名)
/
福沢諭吉
(著)
先生の
親友
(
しんゆう
)
に
高橋順益
(
たかはしじゅんえき
)
という
医師
(
いし
)
あり。
至
(
いたっ
)
て
莫逆
(
ばくげき
)
にして
管鮑
(
かんぽう
)
啻
(
ただ
)
ならず。いつも二人
相
(
あい
)
伴
(
ともな
)
いて予が家に来り、
互
(
たがい
)
に
相
(
あい
)
調謔
(
ちょうぎゃく
)
して
旁人
(
ぼうじん
)
を笑わしめたり。
瘠我慢の説:05 福沢先生を憶う
(新字新仮名)
/
木村芥舟
(著)
啻
(
ただ
)
に盛岡六千戸の建築中の巨人である許りでなく、また我が記憶の世界にあつて、総ての意味に於て巨人たるものは、実にこの堂々たる、
巍然
(
ぎぜん
)
たる
葬列
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
啻
(
ただ
)
そのような証拠を隠滅した行動それ自体が杜には後悔され、そして予審が終結したのにも拘らず、その結末が彼だけには信じられないのであった。
棺桶の花嫁
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
啻
(
ただ
)
に原始時代においてのみならず、中世の欧洲においても、動物に対する訴訟手続などが、諸国の法律書中に掲げられてあること、決して稀ではない。
法窓夜話:02 法窓夜話
(新字新仮名)
/
穂積陳重
(著)
啻
(
ただ
)
苦にしないのみならず、凡そ一切の事一切の物を「日本の」トさえ冠詞が附けば
則
(
すなわ
)
ち鼻息でフムと吹飛ばしてしまって、そして平気で済ましている。
浮雲
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
人
若
(
も
)
し彼に咫尺するの栄を得ば、
啻
(
ただ
)
にその目の
類無
(
たぐひな
)
く
楽
(
たのしま
)
さるるのみならで、その鼻までも
菫花
(
ヴァイオレット
)
の多く
齅
(
か
)
ぐべからざる
異香
(
いきよう
)
に
薫
(
くん
)
ぜらるるの
幸
(
さいはひ
)
を受くべきなり。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
この見る立場の差異とは、
啻
(
ただ
)
に芸術の立場のみではなく、全人間生活の生きる姿勢、身構えといった意味の、いわば世界観の差異である。世界態度の差異である。
「見ること」の意味
(新字新仮名)
/
中井正一
(著)
啻
(
ただ
)
に謫流地の伊予と、元の地なる都との間における事件を述べるに止めずして、尊い女性が、思ひ人の後を追うて漂浪する風に語りひろげる様にすらなつてゐる。
唱導文芸序説
(新字旧仮名)
/
折口信夫
(著)
因果応報が
啻
(
ただ
)
に
仏者
(
ぶつしや
)
の方便のために説かれたもののみではないといふ細かい洞察、さういふものが次第に、一つ一つ日に面した氷の解けて行くやうに解けて来た。
心理の縦断と横断
(新字旧仮名)
/
田山花袋
、
田山録弥
(著)
とある露路の角に差かかった時、突然、
啻
(
ただ
)
ならぬ女の叫声をきいたので、驚いて足を駐めると、不意に真暗な露路から飛出してきた女と危く
衝突
(
ぶつか
)
りそうになった。
日蔭の街
(新字新仮名)
/
松本泰
(著)
勿論、右のようなのは生活の大体の筋書で、例外も起れば、風雲
啻
(
ただ
)
ならないような場合もありましょう。
男女交際より家庭生活へ
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
かかる種類の本は、安永天明から天保の頃にかけて江戸には汗牛充棟も
啻
(
ただ
)
ならざる程あるが、京阪には比較的少いやうである。元祿時分のは多少あるかも知れぬ。
京阪聞見録
(旧字旧仮名)
/
木下杢太郎
(著)
合田氏の
啻
(
ただ
)
ならぬ丹精に対しては、まだお礼が出来ぬので、私はそれを心苦しく感じている
中
(
うち
)
段々身体も元に
恢復
(
かいふく
)
して参って、仕事も出来るようになりましたので
幕末維新懐古談:50 大病をした時のことなど
(新字新仮名)
/
高村光雲
(著)
啻
(
ただ
)
に最近五年間といはず、有島君が最初から目指してきた、又総て武郎君の生命活動の
主動
(
ライトモチフ
)
を為した愛が、此処にその全我の大肯定の
下
(
もと
)
に、自らを確立したのである。
愛人と厭人
(新字旧仮名)
/
宮原晃一郎
(著)
啻
(
ただ
)
に一国においてのみならず更にまた多くの国において、ほとんど限りなく増加せられ得よう。
経済学及び課税の諸原理
(新字新仮名)
/
デイヴィッド・リカード
(著)
人生は僕のためには十分耐へ忍んで行くことの出来るものである。僕は我生存の上に煩累をなす何物をも見出さない。僕には失恋の恨は無い。
啻
(
ただ
)
に恨が無いばかりではない。
不可説
(新字旧仮名)
/
アンリ・ド・レニエ
(著)
その非常に苦しい状態は
啻
(
ただ
)
にこのペンバ・プンツォのみならず、ほかの貧民も乞食も皆そういうような状態に在る者が多いからして、そこでこういう事をいったのでしょう。
チベット旅行記
(新字新仮名)
/
河口慧海
(著)
啻
(
ただ
)
に芸者になった場合に限らず、妻のどんな行為も実は傍観する外はない結論となります。
安吾人生案内:04 その四 人形の家
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
全く私は笠神博士の所へは
繁々
(
しげしげ
)
出入した。今では私は博士を
啻
(
ただ
)
に恩師としてでなく、慈父のように慕っているのだ。静かに考えて見ると、私は別にその為に恐れる所はないのだ。
血液型殺人事件
(新字新仮名)
/
甲賀三郎
(著)
かく重んずべく貴ぶべき身命を抛擲して、敢えて犠牲たらんと欲せしや、
他
(
た
)
なし、
啻
(
ただ
)
愛国の一心あるのみ。しかれども、悲しいかな、中途にして発露し、儂が本意を達する
能
(
あた
)
わず。
妾の半生涯
(新字新仮名)
/
福田英子
(著)
啻
(
ただ
)
さへ秋は僕達の食慾をそそるのに、
況
(
ま
)
して沢山な御馳走で……我々は遠慮なく腹一ぱいに頂戴した。コッペ先生の食慾は僕達程ではないので、シガレットを吹かしながら何かと雑談……
フランソア・コッペ訪問記
(新字旧仮名)
/
堀口九万一
(著)
啻
(
ただ
)
に遊覧地なるのみならず、その近傍は上代及近世に亙りて、歴史の上に関はるもの尠からず、また山光といはず、水色といはず、乃至、一茎の撫子、一羽のかち烏(肥前の特産)にも
松浦あがた
(新字旧仮名)
/
蒲原有明
(著)
寂漠の情は以前に倍せしとともに同宗教における親愛の情は実に骨肉も
啻
(
ただ
)
ならざりき、当時余は思えらく基督教会なるものは地上の天国にしてその内に猜疑憎悪の少しも存することなく
基督信徒のなぐさめ
(新字新仮名)
/
内村鑑三
(著)
林駒生氏は本伝第二回に紹介した杉山茂丸氏の末弟で、令兄とは雲泥、
霄壌
(
しょうじょう
)
も
啻
(
ただ
)
ならざる正直一本槍の愚直漢として、歴代総督のお気に入り、御引立を蒙っていた統監府の前技師であった。
近世快人伝
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
彼はその
厭悪
(
えんお
)
すべき
蠢動
(
しゅんどう
)
のうちに、
啻
(
ただ
)
に現在の社会制度を掘り返すのみでなく、なお哲学をも、科学をも、法律をも、人類の思想をも、文明をも、革命をも、進歩をも、すべてを掘り返す。
レ・ミゼラブル:06 第三部 マリユス
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
しかしてこれは
啻
(
ただ
)
に男子にかぎらず、女子においてもまた然りである。
自警録
(新字新仮名)
/
新渡戸稲造
(著)
...
啻
(
ただ
)
に実用に益なきのみならず、
却
(
かえ
)
つて害を招かんも、
亦
(
また
)
計るべからず」という立場から、「
英亜
(
えいあ
)
開版の歴史地理誌数書を
閲
(
けみ
)
し中に
就
(
つ
)
いて西洋列国の
条
(
じょう
)
を抄約し、毎条必ずその要を掲げて、史記、政治、 ...
福沢諭吉
(新字新仮名)
/
服部之総
(著)
彼の
有
(
もの
)
ではないが、千金
啻
(
ただ
)
ならず彼に愛される。彼が家の
背
(
うしろ
)
に、三角形をなす小さな
櫟林
(
くぬぎばやし
)
と共に、春夏の際は若葉青葉の
隧道
(
とんねる
)
を造る。青空から降る雨の様に
落葉
(
おちば
)
する頃は、人の
往来
(
ゆきき
)
の足音が耳に立つ。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
然
(
しか
)
れどもその友愛の深情に到りては、二蘇の関係も
啻
(
ただ
)
ならざりき。
吉田松陰
(新字新仮名)
/
徳富蘇峰
(著)
二葉亭の窮理の鉄槌は
啻
(
ただ
)
に他人の思想や信仰を破壊するのみならず自分の思想や信仰や計画や目的までも
間断
(
しっきり
)
なしに破壊していた。
二葉亭余談
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
啻
(
ただ
)
に価値を減ぜないばかりでは無い。明かな目で見れば見る程、大胆で、
héroique
(
エロイック
)
な処が現れて来るかとさえ思われる。
青年
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
されば現代の人が過去の東洋文学を
顧
(
かえりみ
)
ぬようになるに従って梅花の閑却されるのは当然の事であろう。
啻
(
ただ
)
に梅花のみではない。
葛飾土産
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
啻
漢検1級
部首:⼝
12画
“啻”を含む語句
啻事
不啻毛嬙飛燕
鐘啻