半端はんぱ)” の例文
「今日は山端やまばな平八茶屋へいはちぢゃや一日いちんち遊んだ方がよかった。今から登ったって中途半端はんぱになるばかりだ。元来がんらい頂上まで何里あるのかい」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ある、いろいろの苦しまぎれからでもあるか、近頃は大阪弁に国語のころもを着せた半端はんぱな言葉が随分現れ出したようである。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
半端はんぱの進歩であり、準の正義である。しかしながら理論は「ほとんど」ということを認めない、あたかも太陽が蝋燭ろうそくの光を認めないと同様に。
村の女たちも、彼に使い走りに行ってもらったり、彼ほど親切ではない亭主たちがしてくれない半端はんぱな用事をいつも彼にたのんだりするのだった。
加茂河原かもがわらあたりで朝食をとるべきなのに、北野まで我慢して来たので、時刻がそういう半端はんぱになってしまったのである。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「どうも半端はんぱな庭園じゃな。それにしても、王老師は、どうしていられるのか。おいおいボーイ君、王老師はまだこの大使館へ出勤せられないのか」
あなただって、片方だけの半端はんぱじゃあ、ほんとの男の紋章とは思わないでしょう。あたし、金五郎さんが、立派な男で、約束を守る人だということを
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
今も東京などで、物の半端はんぱになってまったからぬをハシと云い、朝寝した怠け者が、「今日はハシになったからついでに晩まで遊んで明日から仕事しよう」
間人考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
お糸さんに敬意を表して見ると、もう半端はんぱになったから、国への送金は見合せていると、母から催促の手紙が来た。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
売掛けもどうかと思って、その月の半端はんぱの分をまとめて書付にして出すと、その翌日は綺麗きれいに払ってくれました。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
祖父の異様な蔵書やフォーゲルの蔵書の中から、神学や科学や哲学などの、しかも多くは半端はんぱになってる書物を、手当り次第に引出してきては読みふけった。
どちらでも、ハッキリとしたお返事が欲しいのです。こんな中途半端はんぱな気持のうちに、いつまでも苦しんでいたくないのです。僕は、貴女の全部をつかみたいのです。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
何がさて明治もまだ中途半端はんぱ頃の血腥ちなまぐさい時代の事とて、何かと騒動初まらねばよいがと、仲居なかい芸妓げいぎ連中が心も空にサービスをやっているうちに果せるかな始まった。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
静かに私自身の手で冥福めいふくをお祈りしようと予定しているのですが、これも中途半端はんぱな心でしょうね
源氏物語:38 鈴虫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
そうともさ、肝腎かんじん万年青おもと掃除そうじ半端はんぱでやめて、半時はんときまえから、おまえさんのるのをってたんだ。——だがおせんちゃん。おまえ相変あいかわらず、師匠ししょうのように綺麗きれいだのう
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
やい、寅。てめえのような半端はんぱ人足を相手にして、泥沫はねをあげるのもいやだと思って、お慈悲をかけてやりゃあ際限がねえ。おれは立派に御用の十手を持っているが、てめえを
半七捕物帳:09 春の雪解 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
別室に妹の駆け込んだのを見向きもしない愛子の不人情さを憤る怒りと、命ぜられた事を中途半端はんぱでやめてしまった貞世を憤る怒りとで葉子は自制ができないほどふるえていた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ちょっと時間の半端はんぱが出たりくたびれたりした時などに、当てもなく開いて、色々な魚や蟹の姿に見入りながら、どう描いたらこれが名画になるかなと、ぼんやり考えているのは
南画を描く話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
私はお竜ちゃんのために大事にとってある上等な道具はその子と遊ぶときには使わない事にして、もうさんざ使い古した、そして半端はんぱになったような、ちぐはぐな皿や茶碗ちゃわんでばかり遊んだ。
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
仕事が長びいて半端はんぱな時間になると、龍介はいつでもこの事で迷った。
雪の夜 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
さりとて思う様に書けもせず。彼方あちうらやんで見たり、自ら憐んで見たり。中途半端はんぱ吾儘わがまま生活をするばちだ。致方は無い。もとより見物人も役者の一人ではある。然しはなれて独り見物は矢張さびしい。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
悪いのは、中途半端はんぱだからだ。中途半端だった——つまり、クソだったからだ。しかし、クソでもいい、とにかくインテリだった。途中までしきゃ行けなかったけど、とにかく前を向いて歩いたんだ。
胎内 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
半端はんぱ物共。
君か私かのどっちかが、どうかなってしまえば、図面が半端はんぱになり折角せっかくの苦心も水のあわになったところだ。
人造人間の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ゆすり始めたんで、やむを得ず、毛布けっとの方でも「おい」と同じような返事をして、中途半端はんぱに立ち上った。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
半端はんぱなことをチュウゲンという語は、すでに平安朝の文学に見えている。チュウゲン(中間)すなわちハシタ(半)で、もと間人の義であることは明らかである。
賤民概説 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
それに半端はんぱな具足をつけ、また中には、ゆうべ限り六波羅方に見切りをつけて、たちどころに、野盗と変じた逃亡兵なども交じっているかと思われる烏合うごうだった。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この居候連中は宿屋や酒場にいりびたって、使い走りをしたり、いろいろ半端はんぱ仕事をして、台所の余り物や、酒場のおこぼれにしこたまありつこうという算段である。
駅馬車 (新字新仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
中途半端はんぱなお年で、おおぜいお子様のいらっしゃる中で軽い者にお扱われになることになってはと、尼君も始終それを苦労になさいましたが、宮様のお内のことを聞きますと
源氏物語:05 若紫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
箱根から伊豆いず半島の温泉へ、志ざす人々で、一杯になっているはずの二等室も、春と夏との間の、湯治には半端はんぱな時節であるのと、一週間ばかり雨が、降り続いた揚句あげくであるためとで
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
三十万の特権者をもって立てられた半端はんぱな政府、それらは王位がなした仕事である。
割って割りきれねえ半端はんぱの出るのが半——つまりピンは割りきれねえから半、二は割りきれるから丁、三が半で、四が丁、五が半ならば六が丁、という段取りなんで、おっと待ったり
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
だが、世阿弥の目には、それが書き半端はんぱな海図とのみ単純には看過されなかったとみえて
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかしこれはおそらく新らしい事で、寡聞未だ古くそんな語の使用された事を知らぬ。何方どちらへもつかぬとか、半端はんぱだとかいう場合には、通例古代にはハシタという語を用いた。大和物語に
間人考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
貞節を装うことは半端はんぱの徳でありまた半端の不徳である。