)” の例文
こう云いながら、女は座敷の中央の四角な紫檀したんの机へ身を靠せかけて、白い両腕を二匹の生き物のように、だらりと卓上にわせた。
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
と、それは蝋引ろうびきのベル用の電線で、この天井裏をい廻っている電灯会社の第四種電線とは、全然別種のものであることが判明した。
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
妖精えうせいなんてヂキタリスの花や葉の間やきのこのかげや、古壁の隅をつた連錢草れんせんさうの下を探したけれど、どこにも見附からないので結局
棒同然な物で大海たいかい乗切のっきるのでありますから、虫のうより遅く、そうかと思うと風の為に追返されますので、なか/\捗取はかどりませぬ。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
春雨あがりの朝などに、軒づたいに土壁をう青い煙を眺めると、好い陽気に成って来たとは思うが、食物たべものの乏しいには閉口する。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
幾たびも飛び出す樫鳥は、そんな私を、近くで見る大きな姿で脅かしながら、葉の落ちたけやきならの枝をうように渡って行った。
冬の蠅 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
小作人たちは其処そこで再び彼等独有な、祖先伝来の永遠の労苦を訴へるやうな、地をふやうに響く、陰欝いんうつな、退屈な野良唄のらうたを唄ひ出した。
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
同時に一時間八ノット経済速度エコノミカルスピードの半運転を、モウ一つ半分に落したものだから、七千トンの巨体がありうようにしか進まなかった。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
さて、私は一人の倭人こびとが、雪山せつざんのように高い、白い白い破損紙の層を背に負って、この大伽藍の中をうように動き出したのにも驚いた。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
ボッ——と、まっ黒にい揚がった煙をくぐって、乳母うばのおたみが、お綱がえぐり抜いた穴から、バタバタと逃げだしてきた。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
陽春三月の花のそら遽然きよぜん電光きらめけるかとばかり眉打ちひそめたる老紳士のかほを、見るより早くの一客は、殆どはんばかりに腰打ちかがめつ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
いよいよこれらの写真から音もなくい出る妖しい波動に、シッカリと身動きも出来ぬほど固く、心を奪われてしまった。
魔像 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
老母が夜具の中からい出して何かと横口よこぐちを入れる。夫、妻、いずれの方へ味方をしても同じ事、一場の争論に花が咲く。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
剽盗ひょうとうか、それとも追手か。考える暇もなく激しく闘わねばならなかった。諸公子も侍臣等も大方は討たれ、それでも公は唯独り草にいつつ逃れた。
盈虚 (新字新仮名) / 中島敦(著)
雄吉が手捕てどりにしてやると言いながら、そっと天幕の後から脱け出して、草叢をう蛇の如く忍び足で覗い寄りさま、たくみに八、九尺の距離まで近付くと
大井川奥山の話 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
それをめぐって、十本あまりの、抜きつれた刃が、低く低く、地をって来る毒蛇の舌のように、チラチラと、ひらめきながら、一瞬一瞬、迫って来る。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
そこでは水は泡こそたてなかつたがよく見ると縞のやうな流線を造つて速く流れてゐた。房一たちはその岩の背にひ上つては水の中に滑り滑りしてゐた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
その夜小田原の宿で泊ると、小さいぶつぶつの各々が虫のうような、いじりがゆさを与えた。彼はこれを幾度も掻いた。掻けば掻くほど、かゆさが増した。
船医の立場 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
だだっ広い家の踏めばぶよぶよと海のように思われる室々へやへやの畳の上に蛞蝓なめくじの落ちてうようなことも多かった。
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
するといくらか気が静まって来て、小粒に光りながらゆるんだ綴目の穴から出て本の背の角をってさまよう蠧魚しみ行衛ゆくえに瞳をとらえられ思わずそこへうずくまった。
宝永噴火 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ゴソゴソとっている景色が幻の様に目に浮かび、そのかすかな物音さえも聞える様で、私は俄に、そんな闇の中に一人でいるのがわくなったのでございます。
人でなしの恋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
やが今度こんどは、あいちやんがあたましたへやり、ふたゝはじめやうとすると針鼠はりねずみが、自分じぶん仲間外なかまはづれにしたとつておほいいかり、まさらうとする素振そぶりえました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
「何だって、光線が下からい上がるんだろう。すっかり世の中が憂鬱になるような、光線じゃないか」
蟹はいかに縦にうことを理想としたとても、身体の性質がこれを許さねば致し方がない。それよりはいかに最もよく横に匍うべきかを研究したほうが利益が多い。
人道の正体 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
僕は恐る恐るその上を渡つて行つたが、そこへ猛風が何ともいへぬ音をさせて吹いて来た。僕は転倒しかけた。うしろから歩いて来た父は、茂吉もきちへ。べたつと匍へ。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
グロニャールは短艇ボートそばに残って見張りの役を承わり、ルバリュは大通りに面した、新築の家の鉄門に張り込み、ルパンと二人の部下とは暗の中をって門口まで忍んだ。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
私は、手を合わせ、いつくばって私を拝まんばかりの大チャンが、よく理解できなかった。
軍国歌謡集 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
手入などをあまりせぬ、蔓のうに任せた朝顔を描いた点は、この万乎の句と同じである。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
そんな雨がちょっと小止おやみになり、峠の方が薄明るくなって、そのまま晴れ上るかと思うと、峠の向側からやっとい上って来たように見える濃霧のうむが、峠の上方一面にかぶさり
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
いくつにも距てておる、私達は、ヘッスラーの意見で、ずっと右寄りに、グロース・ラウテラールホルンの方に近いクーロアールを登ってゆく、まるで蟻でもって行くように。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
せがれがモー学校を卒業しましたから安心だというが学校を卒業したのは社会に対する初声うぶごえげたので、まだう事も立つ事も出来ない人間を野放しに置かれてまるものでない。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
室生はまだ陶器のほかにも庭を作ることを愛してゐる。石を据ゑたり、竹を植ゑたり、叡山苔ゑいざんごけはせたり、池を掘つたり、葡萄棚ぶだうだなを掛けたり、いろいろ手を入れるのを愛してゐる。
野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
私がもたれている石垣の割れ目からひとりでに生れて来た子供のように、彼は私の肩にい上がって来る。私が石垣の続きだと思っているらしい。なるほど、私はじっとしている。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
だからひ出してくると飛び退いて、乾いた石の上に腰をおろし直した。それほど、あん子の成長はみづみづしく大きかつた。あん子は何時も癖になつてゐるおもちやを投げ棄てた。
神のない子 (旧字旧仮名) / 室生犀星(著)
スチームへ尻をあてがって新聞を読んでいた預金部長の禿はげは、眼鏡越しにギロリと彼女を覗き、直ぐに不躾ぶしつけを取り戻すかのように、めめずのような笑皺を泥色した唇の周りへわせた。
罠を跳び越える女 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
海に臨んだ岡の片岨かたそばに、くずの葉のい渡った所は方々にあった。越後の海府なども汽車で夏通ると、山はこれ一色で杉もかしわも覆いつくし、深紅の葛の花ばかりがけ出して咲いている。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
圭一郎は蒲團からひ出たが、足がふら/\して眩暈めまひを感じ昏倒しさうだつた。
業苦 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
やがてそれが終り、煙が地の上を低くって、すべてのものがその新しい傷口を吸う時になってみると個人は巨大な機構、機械時代の大組織の中に、冷たくその肌を密着していたのである。
美学入門 (新字新仮名) / 中井正一(著)
我が暮らす日の長く又重きことは、ダンテが地獄にて負心ふしんの人のるといふ鍍金めつきしたる鉛の上衣の如くなりき。夜に入れば、又我禁斷の果にひ寄りて、その惡鬼に我妄想の罪をめらる。
何だか、ぬらぬらしたものが、彼の皮膚の上にいまわるような気がした。
謎の女 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
私は三十年このかた来る日も来る日も同じ時刻に臥床ふしどい出した。三十年このかた同じ料理屋へいって、同じ時刻に同じ料理を食った。ただ料理を運んで来るボーイが違っていただけである。
この加速度的な生活の目眩めまぐろしさは、人々が垂れこめて、深く思索にふける余裕を与えない。人々は我知らず、生活の苦しさからい出んとして、瞬間的な享楽を求める。街にはシネマがある。
大衆文芸作法 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
出来上りましたのは一面につた朝顔の花の青白く光つて透き通る美しさの限りもなく思はれる燈籠でした。その晩軒に吊して置きますと通る人で振返つて賞めて行かないものはない程でした。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
それはまるで部屋じゅうを蛇がいまわっているような音であった。けれど眼をあげて見て彼はほっとした。というのは、懸時計が今まさに鳴り出そうとしているのだと気がついたからである。
……天幕の後ろに博士のい出したあとがあるんです。コンパスやリュックサックもなくなっているし……。漁夫たちを追いかけて、隧道へ入って行ったのだとすると、われわれ全体の破滅です。
地底獣国 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
たべものの事ばかり気にしている。僕はこのごろ、一個の生活人になって来たのだ。地をう鳥になったのだ。天使の翼が、いつのまにやら無くなっていたのだ。じたばたしたって、はじまらぬ。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
汚れた壁にひ付いた、葡萄葉ぶだうばの、さやさやさやぐを聴いてゐた。
ああ、わたしのほとりにひよるみどりの椅子のささやきの小唄
藍色の蟇 (新字旧仮名) / 大手拓次(著)
そこへ、するすると意地いぢわる蚯蚓みゝずひだしてきました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
地下工事の泥水の穴の中からい出して来たのだ。
赤兵の歌 (新字新仮名) / 江森盛弥(著)