いたは)” の例文
旧字:
其れを知らぬ程の良人をつとでは無いが、持前もちまへ負嫌まけぎらひな気象と妻をいたはる心とから斯う確乎きつぱりした事を云ふのであると美奈子は思つて居る。
執達吏 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
いましふ所の如くば、の勝たむこと必ずしからむ。こころねがふは、十年百姓をつかはず、一身の故を以て、万民おほむたからわづらはしいたはらしめむや。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
豊雄がとむらひ来るをよろこび、かつ二一四月ごろの事どもをいとほしがりて、いついつまでもここに住めとて、二一五念頃にいたはりけり。年かはりて二月きさらぎになりぬ。
わたくし負傷けがいたしますとおとつさんいたうないかとつていたはつてれます、わたくし心得違こゝろえちがひから斯様かやう零落れいらくいたし、までつぶれまして、ソノんにも知らぬ頑是ぐわんぜのないせがれ
小母をばさん、さうはたらいちやわるいだらう。先生の膳は僕が洗つて置くから、彼方あつちつてやすんで御出おいで」とばあさんをいたはつてゐた。代助は始めてばあさんの病気の事を思ひした。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
悲しい失意に傷ついた心を凝つといたはつて再び健やかな明るい心に癒すには大きな忍耐が必要です。けれどこの苦しい忍耐の後で——私たちの心はすくすくと生長して行きませう。
〔婦人手紙範例文〕 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
いかにも病人をいたはるやうなしぐさをしながら羽根蒲団へ手を掛けようとした途端……わたしは此処で目が覚めた、しまつた、と思つたが、その瞬間、病人らしく弱は/\しい声で「伯母様」と
(新字旧仮名) / 喜多村緑郎(著)
話をしなければわからんが、ぬい子さんが君と結婚するといふ話を聞いて、それこそ日夜煩悶をしてゐた僕を、心からなぐさいたはつてくれたのは、当時僕の秘書として働いてゐたこの瑩芳なんだ。
昨今横浜異聞(一幕) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
此の老女をいたはつて下ださい、是れは先頃芸妓殺げいぎころしうたはれた、兼吉と云ふ私の友達の実母です、——老母おつかさん、私は、或は明日から他行たぎやうするも知れないが、少しも心置なく此の令嬢かた御信頼おたよりなさい
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
和作はあせりがちな今の自分を、いたはつてやりたい心持で一ぱいになつた。
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
清は病院の見舞客のやうないたはり半分の返辞を続けて居た。
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
あいおとつちやん、ばうは寒くはないけれども、おとつちやんが痛からうと思つて……。父「ン、ンーいたはつてれるの。子「おとつちやんさすつてげようか。父「ンーさすつてれ。 ...