初物はつもの)” の例文
一般に、温室など利用して作った小さなきゅうり、俗に初物はつものと呼ぶような出たてのきゅうりで、料理屋などで使うのは、小さなのがよい。
胡瓜 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
もっとも、これは、世間で云う様な、初物はつものを食うために、何処どこそこへ旅行したとか、身を忍んで屋台店へ行ったとか云う風な食道楽ではなかった。
解説 趣味を通じての先生 (新字新仮名) / 額田六福(著)
そのおそきとは三月にはじめて梅の花を見、五月のうり茄子なす初物はつものとす。山中にいたりては山桜のさかり四月のすゑ五月にいたる所もあるなり。
女子おなごの世に生れし甲斐かい今日知りてこの嬉しさ果敢はかなや終り初物はつもの、あなたは旅の御客、あうも別れも旭日あさひがあの木梢こずえ離れぬ内
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
茄子なすび大根だいこ御用ごようをもつとめける、薄元手うすもとでをりかへすなれば、をりからやすうてかさのあるものよりほかさほなきふね乘合のりあひ胡瓜きうりつと松茸まつたけ初物はつものなどはたで
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
つちしょうに合うでう出来るが、まだこの村でも初物はつものじゃという、それを、空腹すきばらへ三つばかり頬張ほおばりました。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ところが、あの主人と來たら、タチが惡いんださうで、近頃は初物はつものあさりで、眼の惡い浪人の娘——」
二つは三文と近在の百姓が売りに来れば、初物はつもの食って七十五日の永生きと皆々三文出して二つ買うのを、あるじの分別はさすがに非凡で、二文を出して一つ買い
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「これは、畑で出来たことしのお初物はつものでございまする。どうぞ、老公さまにさしあげて下さいませ」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ですから初物はつもののおいしいところは、二人でみんな食べてしまっているのです、金椎さんも苦い面をしますけれど、あの人は耳が悪いのに聖人ですからね、また機嫌を取直して
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
【樂しみの初穗】天上無窮の福を果實にたとふれば地上の樂園の美觀はその初物はつものにあたる
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
S村では、まだ時々駐在所の巡査や校長へ、芋や大根や鶏を「初物はつもの」だと云うので、持ってゆく。所が、その偉い旦那さん達が、裏では村の金持や有力者と、ちアんと結びついている。
不在地主 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
初物はつもの食いで、同一の女郎を二度と買った、ためしがないという男だ。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
もっとも食卓の飾にする初物はつもの珍物ちんぶつはおこのみなさらず
そのおそきとは三月にはじめて梅の花を見、五月のうり茄子なす初物はつものとす。山中にいたりては山桜のさかり四月のすゑ五月にいたる所もあるなり。
まあこの娘と乳母ばあや——は、これはもう一度卒業したんだから、明いているといえば明いているが、初物はつものとは言えねえのだ、してみると、取引のできる女というのは、お喜代坊ひとりだけなんだ
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)